作業員が毒ヘビに噛まれた!
――社会がコロナ禍になって既に1年以上経過した訳ですが、コロナ対策について特に気を付けていることは何ですか?
林さん まぁ、一般的に言われているようなことですね。例えば、朝礼前には検温と体調の確認と、トイレ・休憩所・詰所の消毒。そして、打ち合わせする時はマスク着用を義務化し、窓を開け換気しています。
この現場で特に実施していることは無いですが、出入りしている協力業者の皆さんへは、週末に飲みに出歩かないように釘を刺しています。「出歩かないように」って。
その一言が実際に効果があるかは分かりませんが、伝えることで、聞く耳がある人には伝わるだろうと。要は出歩かなければ感染リスクは減るわけですし、誰しも感染しないテリトリーってある訳じゃないですか。
――ええ。
林さん それ以外のところへは出かけないでくださいと。私も気を付けていますが、家を出て現場へ赴き、仕事が終わってまた家に帰る。それ以外のところへ行かなければ、家と車と現場ではコロナ感染者がいない訳ですから、罹患しようがない。それ以外のところへは一歩も出かけないように職員も職人さんたちも気を付けています。
コロナ感染者が現場から出れば現場が止まってしまいますからね。皆さんも仕事ができなくなってしまう訳です。
ですから、週末、GW、年末年始へは感染の恐れがあるテリトリーへは出かけず安全な生活圏でって一声かけています。
――現場に迷惑をかけないよう、個人個人の注意が大切ですね。次は安全対策について伺いたいのですが、この現場ではどうですか? 無事故記録は掲示されていますが。
林さん この現場で事故は無いですね。カスリ傷も誰もいないです。私、建設業で働いて25年ですけれども国内では大きな事故は全くなかったですね。
――冒頭でお話された海外赴任時ではあったのでしょうか?
林さん 海外の時はですね…。事故っていうのかなぁ、まあ、事故といえば事故ですが、スズメバチに現場作業員が何人も刺されたっていう現場がありました。
あと、他の現場で作業員が毒ヘビに噛まれて死ぬ寸前っていうのがありました。ただ、毒ヘビが生息する地域の現場施工というのは事前に知っていたので、血清の準備をしていたんですよ。
田舎の現場でしたから医療施設も傍に無かったので、応急処置として血清を打って時間を稼ぎ40km先の大きな町の病院へ担ぎ込んでなんとか一命をとりとめたっていうのがありました。
――いくつくらいの方だったんですか?
林さん 30代前半くらいでしたかね、測量屋さんでした。その時は丁度お昼休みだったんですよ。
普通はゲートルを巻いて現場作業しますが、昼休憩でゲートルを脱いで寝転がった時に背中を噛まれたんです。その国道の測量は一つの工事で30kmですよ、30km。
――現場が30kmもあれば、「緊急連絡体制」と言っても途方に暮れちゃいますね。
林さん 途上国ですからね。一応、診療所みたいなところはあってそこで血清を打つぐらいしか対処療法が無かった訳です。
――本当に、自分の身は自分で守る。
林さん そうなんです。私も現場へ出る時はゲートル巻いて出ていきましたから。
その時は、着工する前に近隣を調べたり、農家の人たちのお話を聞いたり、現地調査を入念に行いました。血清の準備も農家の人たちからアドバイスをもらったんです。「この辺は毒ヘビが出るから気を付けた方がいい」と。それで、噛まれた時の時間稼ぎの血清が奏功した訳です。
あと、事務所のお掃除等の庶務をする現地女性スタッフも、面接前の書類選考で看護師の免許も保持している方を採用しました。万が一の時は、血清の注射を打てるとのことだったんで。
それで、その時はその女性スタッフが対処してくれて、直ぐに現場のピックアップトラックで病院に搬送して一命をとりとめたんです。
その時は、「ああ、ウチの現場から死亡者がでるかもしれないなぁ」と胸中に去来しました。
――それを思えば国内の現場において、規律さえ守ればコロナ感染や怪我人なんて出ない訳ですよね。
林さん 規律を守ってくれればいいですよ。ただ、日本の現場でも沖縄ではハブ、本州ならヤマカガシやマムシでも噛まれたら死ぬ場合だってありますからね。
この千住の現場の前は千葉の松戸の江戸川の河川の現場だったんですが、そこは、スズメバチの巣がありましたからね。そこは気を付けるようにと事前に言われました。
竣工の陰に「良きパートナー」
――公共工事の竣工を迎えるにあたって、点数の獲得は気に掛けるところだと思いますが、工事成績の評価を得るために林さんが大事にしているところは何ですか?
林さん どのゼネコン、建設会社の方で土木の公共工事をなさっている方なら同じこと考えているかと思いますが、先ず1番は事故を起こさないこと。
2番目に、やはり、突貫工事にならないように決められた工期内に滞りなく終わらせるということ。先を読みながらやることが重要ですね。
3番目に、その工事の目的と技術的な特徴を理解することですね。今回のアーバンリング工法や汚泥の空気圧送もそうですけど、現場へ視察にくる発注者や協力業者さんたちに説明できるように職域の理解を深めないとダメですね。
工事の評価点の中に技術者の工事の理解度とか、技術面の高い低いは当然あって、検査官にそれらを審査される訳ですからね。検査されながら技術者の「人となり」を見られますから、当たり前のことですが、現場をきちんと理解することが肝要なんです。
4番目は、発注者、近隣住民、そして、ここの現場だとJV工事などの競合工事の方々とのいい関係を築くこと。いいコミュニケーションを図ってトラブル無く終わらせることですね。
この4つの事柄を守るように創意工夫をすれば、自ずと無事故無違反は付いてきますからね。
――建設業で働く方々へのメッセージをお願いします。
林さん そうですね、私は「下請け」って言葉を極力使わないようにしています。
業界3年目くらいからですかね…。現場代理人をするようになってから特に気を付けているんですが、当然、我々は元請けで下請けの業者さんたちの方に工事を請け負わせていますが、施工体制で用いる言語としては「下請け」となりますが、私は協力業者さんと呼んでいます。要するに、工事を完成させるための良きパートナーがまさしく「協力業者」なんですよ。
工事の出来栄え、品質、安全を高めていくためには、協力業者との関係を良くしておかないと絶対できないですね。例えば、出来栄えなんか特にそうですけど、業者さんと仲悪ければ適当にされちゃいますし(笑)、安全も協力業者さんの立場にたってどこが危ないかを探さないとKY(危険予知)できないですし、関係が悪いと指示も行き渡らなくなるんで、信頼関係を築くうえでもそう呼んでいます。
――人間は社会的で感情の動物ですからね。業者さんたちもお仕事をいただいている立場ですが、ぞんざいに扱ったらハレーションが起きてしまいますからね。
林さん 余談ですが、海外の方が上下関係の厳しさが顕著でしたね。海外の工事だと、我々技術者と労働者の立ち位置がより明確でしたね。階層制度の名残りか知らないですけど。海外の現地の技術者というのは、労働者・作業員を泥犬のように使うんです。現場内において、作業員は作業員の階層、技術者は技術者の階層みたいな意識がすごく強くて。サブコントラクター、つまり、サブ(下、地下)とコントラクト(契約)というニュアンスですからね。そんな現地人同士の主従関係をよく目にして嫌でしたね。奴隷を扱うような。
ですから、私はイコールパートナーカンパニー(協力業者)と呼んで気を遣っていました。作業員も技術者も同じ現場で働くなら関係ない。あくまでパートナーなのだと。現場のみんなを一堂に会しての食事や宴なんてよくやりましたよ。
――最後に、林さんが建設現場の仕事で好きなところはどんなところですか?
林さん (笑)。なにかなあ。某大手の会社のコピーではありませんけど、「地図に残る仕事」。土木の現場だとそれは言えると思います、建築でも多少ありますけど。
我々は、道路を作ったり橋をかけたりっていうのは社会インフラとして残る訳じゃないですか。そして、それらを人々が利用していく。私が関わった仕事が見ず知らずの人々の生活に寄与されるのが何となく楽しく思います。
あと、日本各地へ行ったり、海外で赴任したりと、様々な場所や国で仕事できたのが良かったですね。今の若い人はそういうの嫌がるみたいですが、私は全く逆で楽しかったですね。いろんな場所の風土、様々な国の文化に触れて人間的にデカくなりましたよ。
―――
そう笑う林さんは恰幅が良く、人としての大きさも感じる。長く海外での活動を経て価値観にも幅があるように思われた。
それらの経験は国内の現場管理にも活かされ、協力業者らと楽しくも真剣に向き合えているのではないだろうか。
知識と経験と慮り。時折、快活に笑う林さんに仕事人の優しさと余裕が見えた。
お子さんは今春、中学校への進学を迎えた。グアテマラ人の奥さんと築く温かい家庭へ今日も帰る。
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