「日本食でないとダメ」だと海外での仕事は難しい
――それはすごいご苦労があったかと思いますが、現場でのコミュニケーションとして英語圏での海外赴任のほうが楽だったとか想い返せますか?
林さん どうですかね…。まあ、確かに英語は読むのはいいですけど、話すのはあやふやでしたので、英語はヒアリングが難しかったですね。英語は習えばすぐ覚えると思うんですが、スペイン語のほうが多分しっかり話そうと思えば難しいと思います。
ただ、スペイン語は日本語と一緒で母音が5つなんですよ。アイウエオなんですね。ですから、全く知らなくても聞き取ることはできるんですよ。で、私、ちょっと農水省系のシンクタンクへ出向していた時に、英語圏の東南アジアへ行ってた時もあるんです。その時は英語で喋るんですが、英語の発音は難しいと思いました。ネイティブの人の英語とアジアンイングリッシュとのタイプの違いもあって聞き取りにくいですよね。
スペイン語はアルゼンチンとメキシコで結構な発音の違いがあったんですが、それでも、英語程の違いはありませんでした。
――なるほど。
林さん 僕も、グアテマラが長くて8年くらい居ましたから。そうするとですね、同じスペイン語を聞いてもグアテマラとメキシコは似てるんですが、南米は少し違う気がしました。
聞けば「この人中米系じゃなくて南米系だな」って分かってきます。それくらいちょっとニュアンスやイントネーション等、若干違います。日本語で言うところの標準語と大阪弁みたいな。そんな感じです。でも、意味は分かります。
――海外赴任で人との出会いが多々あったかと思うんですが、仕事で異文化交流できるなんていいご経験ですね。
林さん まず、奥さんと出逢えたことですね。私の妻はグアテマラ人なんです。いろいろと、私の支えになってくれていることに感謝しています。
海外赴任は楽しかったですよ。私の性格がどんな人でもコミュニケーションをとれる性格だったというのもあるでしょうが、どの国へ行ってもそこそこ皆さんと仲良くやってましたね。やっぱり、海外で経験が全部で9年間、出向の仕事も合わせると11年ありました。
――お仕事が終わってからの食事や晩酌なんかも楽しみの一つだったのではないでしょうか? 現地の人たち、よく飲みそうですね(笑)。
林さん 南米の人たちはよく飲みましたね。中米は意外とプロテスタントの人たちが多いので、半分くらいの人たちは飲まなかったんじゃないかな。
食事に関しては「日本食でないとダメ」ってタイプの人だと海外での仕事は難しいと思います。
――飲料水なんかも大事ですし、便秘になったりする人もいるみたいですね。
林さん ええ。アフリカやイスラム系の地域とかは食文化への適応は難しそうですね。私は中南米が多かったので、あっちはそんなに日本と変わらないですし、食事は美味しかったです。
東南アジアのタイの香菜(パクチー)は苦手でした。タイは日本人が多くて、3万人くらいいるのかな? 日本人のコミュニティも沢山あって、日本食のレストランは多くて日本食にすぐにありつけますね。
ただ、海外へ行ったら極力現地の物を食べるようにしています。
――それは、健康面というより、海外の現地の職人さんとのコミュニケーションにも役立ちそうだからですか?
林さん そうですね。それもありますし、やっぱり、食事も「文化」ですから、現地の、赴任先の文化に慣れるのが大きいですね。
建設汚泥を”空気圧送”で船舶へ積み込み
――さて、今回はそんな林さんが現場代理人として着任されている千住関屋町再構築工事についてお聞きしたいのですが。
林さん ここの概要は下水道の工事なのですが、ここの下水道管を何のために使うかと言いますと、ゲリラ豪雨などの異常出水時の洪水対策として東京都の下水道局で計画された工事です。
ちょうど、我々のお隣で大林・大本組JVさんが千住関屋ポンプ場を建設していますが、そのポンプ場へ接続している下水道管は、隅田幹線というシールドトンネルですね。それを昨年度かな? 東急建設さんが施工して完成させています。
で、我々の工事は、その千住関屋町付近で降った大雨を集めて、特殊人孔と呼ばれている深さが42mある人孔に集めた水を隅田幹線に流し込むための下水道の工事です。
――現場を拝見しますと、御社とお隣の大林組・大本組JVとでかなり大規模な工事現場とお見受けしますが、周辺の住民なんかとの軋轢は無かったのでしょうか?
林さん 2008年から10年以上千住関屋ポンプ場工事は続いています。当初、特殊人孔(アーバンリング)を掘削した残土は、大型ダンプ車で陸上運搬する予定でしたが、先立って現場入りしていた大林組・大本組JVさんでは船舶で運搬していました。これは住民さんからの要望で、それに基づき、弊社の掘削した建設汚泥も船舶で運搬することになりました。
大林組・大本組JVさんの掘削土は、現場内で乾かした土なので現場に常設したベルトコンベアで船舶へ積載できたのですが、弊社のアーバンリング工法は水中掘削なので、土の含水比が高くベルトコンベアでは積み込めないことに困っていました。
そこで、都市河川の浚渫工事において空気圧送で含水比の高い土壌を送り込む方法があることを知っていたので、その業者へ打診してみました。
その専門業者もアーバンリング工法から空気圧送で船舶へ積載することは初めてのことだと驚いていました。当然、私も初めてのことだったので、手探りの状態からはじめたようなものでした。
――なるほど、経験を積まれた林さんでも着手にあたり苦心されたんですね。それ以外のご苦労は? 例えば、材料の製作遅延による工期のずれこみとか?
林さん それは無かったですね。工事は遅れたのですが、建設汚泥の搬出方法が丸々変わったことによる計画の変更に手を焼きました。空気圧送で汚泥を送り込むと言っても、川に向かって圧送する配管の設備も一から構築する苦労がありました。
本来、空気圧送というのは都市河川のヘドロの除去で用いる方法です。我々の立坑は地上から20~25mくらいは東京下町の「有楽町層」というN値が0~3位の非常に柔らかい粘土層、シルト層だったので、問題なく圧送できたのですが、その下の東京礫層になると、最大で30cmくらいの大きさの玉石が混ざってくるので、そうなると空気圧送で送れない事態になりました。
空気圧送の配管自体は25cmの管径だったので、10~15cm位の石の混入なら送れました。それより大きい石が混ざると配管が詰まってしまうので、フィルターを付けて除去できるようにしました。
それ以外の小さい石の混入汚泥は、掘削土量の2倍くらいの水と一緒に押し流しました。当然、船舶にも水が溜まってしまうので、夜にポンプで立坑へ水を戻す循環作業も行いました。
通常の粘土やシルトの砂の層でしたら1日2mくらい進捗させますが、東京礫層に至っては1日に20~30cmくらいの進み具合で5倍くらい手間を喰いました。
――5倍も違えばかなりの影響ですね。
林さん そうなんです。それ以外は表層3mくらいはゴミがすごかったです。陶器、レンガ、枯れ木、建設廃材(桟木?)がものすごい量で1週間も手を焼きました。
協力業者さんたちも「こんなやり方で工期中に終わるのか」と心配して、一時は現場が険悪なムードになり肝を冷やしましたよ(苦笑)。