協力業者と知恵を出し合う大切さ
――実際は予定どおりに進めたのでしょうか?
林さん 砂礫の層で苦労しましたけど、それ以外は当初計画どおりの1日に1.2mでほぼ予定どおりで終わりました。初めての試みを遂行したわりには大きなトラブルも無く、胸を撫でおろしました。
――初めての試みに臨むにあたり、協力業者さんとの連携で特に気を付けたことは?
林さん そうですね、いろいろと意見交換したり、それぞれの経験を持ち寄って類推しました。弊社も協力業者さんたちも皆、初めてのことだったので。
空気圧送がご専門の小柳建設さんも初めてのことだったのでお互い手探りでしたが、コミュニケーションを密に乗り切りました。
通常、川の浚渫ですとか、東京都も内堀、外堀と浚渫をしているのですが、圧送した土は同じくらいの高さの場所へ圧送していくのです。
ただ、ここの現場は施工条件が制約され、9mくらいの高さまで一旦上げなくてはならず、詰まりやすかったり大変でした。重力に逆らっていきますから。
水平でしたら2kmくらいどーんと圧送できるらしいのですが、この現場は圧送機から配管をぐるっと回って9m上がらなければならなかったんです。そういう配管は一般的な現場ではあまり、無かったみたいですね。
で、当初、圧縮空気を作るコンプレッサーは1台で予定してたのをもう1台追加して2台体制にしたりとか、空気を効率よく送り込めるようにエアータンク(空気のレシーバーのためのタンク)を設置して効率よく圧縮空気を送れるように工夫しました。
あとは、石を選別するためにフィルターも設置しましたが、粘性土の層の掘削時はそのフィルターに詰まってしまいこれにも苦労させられました。
土質を見ながらフィルターの隙間の間隔を30cm開けて細工し、粘性土を送り出しました。逆に礫層になったら間隔を10cmに狭め掘削の進捗に合わせていきました。
それらのアイデアは協力業者さんたちと知恵を出し合い、協業していくことのありがたみを感じました。現場で汗をかく土工さんたちも10cm以上の石がフィルターにひっかかったら、手選別で除去作業して頂いたので感謝しかありません。
――予想だにしない事態に対して急に閃いたアイデアはありますか?
林さん 空気圧送における施工で砂礫層にぶつかると一筋縄にいかないと聞いていたので、通常の2倍くらいの水を送り出そうと計画しました。水を常に送れるように水槽を準備したのですが、自動放水の施策も併せ臨機応変に潤沢な水を送り出せるようにしたのです。
前述しましたが、船舶に水ばかり溜まってしまうし、水ももったいないので水を戻すために送る管と戻す管の両方を構築して循環させたのが奏功しました。この循環システムが無ければ工期どおりに終わらなかったと思います。
ですので、着工前にトラブルを想定しながら、アイデアをストックしておきました。
若人よ、失敗を恐れるな!
――そんなご苦労もあったこの現場は何名体制で乗り切ったんですか?
林さん ここは3名ですね。
――わりと3名で臨むゼネコンさんは多いですよね。
林さん そうですね。現場管理に書類作成など、3名以下ですと辛いですよね。この現場は10億円弱程の工事規模ですが、それを3人で回すというのは多すぎず少なすぎずと、丁度いいスタッフィングです。
今、ここでは私が現場代理人ですが、所長は瀬戸と申しまして所長デビュー戦で、私よりも14歳若いです。瀬戸が発注者様との折衝や、協力業者さんたちとの契約に集中できるよう、私は瀬戸のサポートに徹しアドバイスも考えました。
本来、瀬戸と私でこの現場は回せるんですが、新入社員の出口に現場のことを憶えさせています。
――「建設現場の担い手不足」が叫ばれて久しいですが、現場管理もしながら若い世代の育成も平行させて難しそうですね。
林さん そうなんです。私、新入社員と仕事するのは久しぶりですが、2年目から4年目、それから海外工事もそうでしたけど、新入社員ないし2年目の社員とばかり仕事していていろいろと教えたんですけども、皆辞めてしまいますよね。
――だいたい何年目くらいで辞めていってしまうのですか?
林さん どうですかね、3年くらいですかね。
私の現場で一緒に働いた新入社員で辞めた子はいません。甘やかしては無いですけれども、辞めてほしくなかったので、一生懸命に教えていました。
ただ、そこから他の現場へ行ってから辞めていってしまって…。それを後から聞くと残念でしたね。我々の業界の悪いところで、サポートしない人もいるんですね。そうすると、現場管理はいろいろな仕事をするので、1から10まで教えて7~8くらいまでは手ほどきしてあげないと新人はできない訳ですよ。
私らが若い頃なんて1~10までやることあるのに、2くらいまでしか教えてもらえませんでしたよ(笑)。あとはもう自分で勉強でした。
――よく現場で「目で盗め」って言いますもんね。
林さん そうですよ。まあでも、そういう時代じゃないですし、最近の子は特に丁寧に教えてあげないとダメな気がします。私自身もそれで苦労したので、入社した子には同じ苦労をさせたくないなっていろいろと教えたつもりです。
あとは、優秀な子だと後から独立したとか、異業種へ転職して成功してしまったとかありますね。上司との軋轢や人間関係が嫌で辞めたという新入社員は二人だけですね。
――この媒体を閲覧する新卒で業界で働き始めた皆さんへ、建設業で働き続けるコツみないなのをご紹介できませんか?例えば「抜くところは抜く」みたいなアドバイスとか。
林さん んーっ難しいです(笑)。まずは、私が思うに失敗を恐れないことですかね。
――建設業に関わらずモチベーションを保つのにそれを仰る方いますよね。
林さん そうなんです、最近の子ってどうも完璧にやらないとダメなんじゃないかなあと。
今の学校教育がどうか分からないですけど、1か10かの二元論の思考の子が多いと思います。
現場はそうじゃないんですよね。確かに失敗をするといろんな人に迷惑をかけるし。
――怒られるし(笑)。
林さん (笑)。怒られるし、しょぼんとするし(笑)、ヘコむし。で、気分悪いし。
ただ、失敗したことによって憶えることって多いですから。
――脳科学で言う「エピソード記憶」によると、辿りやすいし後から物語にできますからね。
林さん はい。私も働き始めて二十何年経って言えることですが、1年目2年目の職員に対して、言葉は悪いかも知れませんが期待してませんから。
失敗するもんだと思ってます。仕事は頑張ってほしいのですが、100%こなせるとは思ってないんで。逆に失敗してくれたほうがありがたいです。それくらい思い切ってやってほしいんですね。一度や二度の失敗でへこたれないでほしい。