大規模予算化された「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」
――「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」が正式に決まり、大規模予算がつけられました。また、国、地方自治体などあらゆる関係者の流域全体で治水を行う「流域治水」に転換していく中、地域建設業としても河川防災について展開していく?
鈴木専務 ええ。流域全体で河川を管理するという考え方はとても重要です。防災・減災の計画は行政単位で行いますが、自然災害に向けた防災・減災は流域全体で検討することは画期的な考えです。上流と下流の市町村の流域が同じ考えで自然災害に立ち向かっていくことになり、これからの新しい時代に向けた防災・減災の考え方にマッチしています。
防災・減災はハードとソフトの両輪で進めなければなりません。ハードは分かりやすく、地域建設業の仕事に直結しますが、ソフト面では、どのくらいの風水害となるのかなど情報の取得が重要になります。地域建設業は点検・パトロールとして現場に行き、目視して、情報を国や地方自治体に提供するなどの役割があります。
特に阿武隈川は長く広い川ですから、地域建設業が流域全体の守り手になることを考えると、関係機関の情報共有や連携が大切です。ですから、どこかに災害情報を一元化する必要があります。通常の災害では特に問題になることはありませんが、各地域の建設業の能力を超えた災害が発生した場合、広域的にどのように連携するかが最大のリスク管理になります。
たとえば、広域かつ大規模な河川氾濫をもたらした「令和元年東日本台風」。この災害の教訓から、これからは上流と下流のマンパワーや資機材の融通や情報の共有がますます重要になってくるでしょう。
――こうした大災害に対応するために福島県建設業協会としてはどのような対応を。
鈴木専務 震災以降、BCP(事業継続計画)を充実させました。具体的には、資材の備蓄は当然のこと、広域かつ大規模災害でも地域建設業が連携しながらいかに活動するかもBCPにまとめています。東日本大震災でも資材の融通により、地域間の連携が進み、被災地へ支援など効果も出ています。BCPに基づく広域支援体制の構築などがとても大事であると思います。
――災害に対応していくうえで、地域建設業の役割が重要ですね。しかし、(一社)全国建設業協会(全建)の調査では、会員企業不在エリアが増加し、いわゆる災害対応空白地帯のリスクも高まっていることに懸念を抱いています。
鈴木専務 同調査での一番深刻な地域は北海道ですが、次は福島県です。現在、59市町村がありますが、その中で1社のみ存在する地域が15町村、会員ゼロが13町村です。つまり、会員企業が存在しない地域で災害が発生すると、別の市町村の会員が出動することになります。物理的には距離の問題で、何十kmも離れていると初動体制は遅れますから、企業が各市町村に存在することが災害対応の面からも望ましいことです。
ただ、インフラが整備された町村ですと仕事も少なくなります。昔は地域建設業が存在していた市町村でも倒産、休廃業・解散などで今は存在しない地域もあります。会員ではない地域建設業も運営しているところもありますが、災害対応ができるかといえば体制的に疑問で、やはり我々建設業協会の会員がその地域に存在することで地域住民も安心感が芽生えると考えています。
――東北建設業協会連合会への取材では、「地域建設業者は半公財」との声がありました。準公務員的な位置づけが必要ではないでしょうか。
鈴木専務 理屈的に認識していただくことと法律的に位置付けることが大事ですが、現状はそうはなっていません。消防はそういった位置づけになっており、何かあって怪我をすれば公的保障が適用されます。
ところが、地域建設業はやっていることは消防と同様でも、もし何かあっても国家的な、あるいは法的な保障がありません。他にも、除雪も必ずやらなくてはならない業務ですが、不安定で法律的な裏付けが何もありません。地域建設業も何らかの法律で、地域の守り手としてのエッセンシャルワーカー的な位置づけが確立されれば、我々も胸を張って仕事ができるわけです。地域建設業は縁の下の力持ちだと言われながらも、処遇が十分でないというのが現状ではないでしょうか。
除雪ができず、終日通行止めも?
――このままだと除雪もままならなくなりますね。
鈴木専務 そうですね。確かに除雪は大変ですが、会津地方のような豪雪地帯はそれなりの体制を整えているため、人手やオペレータさえ確保すればできます。ただし、そのオペレータが高齢化しており、人材の育成・確保が深刻な課題です。
問題は、年に何回かしか降らない中途半端な地域、福島県で言えば中通りです。たまにいわき地区で降ると除雪に慣れていないため、パニックになります。こうしたエリアの地域建設業をいかに継続的に維持できるかも大きなテーマと言えます。このまま先細っていては、中通りの道路は除雪ができなくなり、終日通行止めとなる可能性もあり、そうなれば大きな社会的損失を招くことになりかねません。
――そこで重要なのは人材ですが、残念なことに建設業は高齢化も進展しています。
鈴木専務 高齢者は技術・技能の熟練者でもあり、ノウハウも持っていますが、その方々がさらなる高齢化により業界から引退されることは大きな痛手です。
特に、建設業はノウハウが必要ですから、他業種から中途で入職してうまくいくという例は多くありません。そこで若い方に入職してもらうことが最重要課題です。
県内で建設系の学科を保有する高校は14校ありますが、残念ですが会津地方は数校しかありません。地域建設業は、毎年、若い人材を雇用していかなければ経営が成り立っていきません。
福島市や郡山市を有する中通りは比較的人材には恵まれていますが、会津地方は工業高校が不足しているので、普通科学生を採用し、ゼロから育成しています。また、大学生も会津地方にはなかなか来てくれないために、地域間での人材の担い手確保・育成についてバランスが悪いことが実情です。自前でイチから建設業の教育を行うことも非常に大変です。
――人材育成で県建設業協会がなにか実施することは。
鈴木専務 2021年度から福島県建設業協会では若手新入社員技術者を対象とした教育事業を立ち上げます。2週間ほどの研修なので、すぐに一人前の技術者になることではありませんが、それでも建設技術の初歩は身に着けられるため、少しでも企業のお役に立てればと思います。
建設業界における労働力不足は、技術者と技能者のカテゴリーがあり、この2つの人材をバランスよく確保できないとうまくいきません。特に人材確保という視点から見ると、現場で働く職人さんを確保することが最も重要です。建設業協会は技術者集団の組織ですから、専門工事業者の団体と連携し、人材確保していくという協力体制を強化していきたいと考えています。
――最後に、改めて東日本大震災の教訓を。
鈴木専務 あれだけの災害は、我々が生きてきた中ではありませんでした。しかも、原発事故までを含めた複合災害です。インフラを管理し、復旧するという地域建設業の使命としては、反省点はいくつかありました。
具体的には、いざという時に連絡がつきにくいことが多かったため、どこかに司令塔を置き、情報を一元化されている体制を早めに取っておくべきでした。携帯電話がほぼ使えず、通信手段がない状態で、「情報はまだか」という焦りもありました。
また、当時は燃料が全く県内に入ってこないため不足していた状態でした。最終的には、民間団体がガソリンを融通してくれたことと、エネルギー庁の対応により、数日間で燃料の件は解決しましたが、地域建設業と一般の方とで限られたガソリンをどう分配するか相当難儀をしたため、発災時の燃料の確保は大きな課題だと捉えています。
こうした問題は、経験しなければ分からないことが多かったですが、あらゆる事象を想定した時の行政との窓口の整備をしっかりしておかないと、経験のない災害が発生したときに右往左往するだけです。この事象であれば、この窓口と、決めておくべきだと考えています。
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