役人に土木広報はムリ
――土木広報について、お願いします。
竹廣さん われわれは、インフラを担当する者として、日々仕事をしていますが、基本的に内向きなんですよね。外向きにどれだけ情報を発信しているかとなると、単発のイベントを市民向けに開くなどはありますけど、日常的にインフラの目的などについて、市民に対してちゃんと説明できているかと考えると、必ずしもそうではありません。例えば、道路下水道局ではFacebookで情報発信していますが、やはり単発なものですし、読者も限られています。外向けの情報をもっと積極的に発信していけば、インフラ、公共事業、業者さんなどに対するイメージも変わってくると思うんですが。
見坂さん 行政からの情報発信は明らかに不足しています。インフラが必要だと言いすぎる必要はないと思いますが、少なくとも、行政が今やっていることをありのままに正直に発信して、県民に知っていただくための広報は大事だと思います。ただ、広報はどうしても後回しになりガチで、仕事はちゃんとやるんだけども、多くの県民に知られることもなく、自己満足で終わってしまうケースが多いです。
竹廣さん あるとき福岡市長から「え〜、土木屋さんってこんなスゴイことやっているんだ。知らなかった」と言われたことがあったんです。「なんでもっとPRしないの」とも言われました。市長でさえそうなので、市民の方はもっと知らないと思うんです。
土木屋はちゃんと説明する能力を持っていると思うのですが、苦情を言ってきた人とか、個別対応にとどまるんです。あくまで自分たちは「縁の下の力持ち」であって、自分の仕事をしっかりやって、外向きに広く説明をしないまま、ずっと内向きでやってきているんです。
見坂さん 行政機関は、やはり広報がヘタですよ。自衛隊には専属の広報部隊がありますが、土木セクションにも広報部隊が必要だと思います。もちろん、福岡県を初め自治体には広報のセクションはありますが、役人が広報をやるんじゃなくて、民間の広報のプロに委託するなりしないと、外向きにはなかなか伝わっていかないと思っています。民間に委託するとなると、それなりの経費が必要ですし、そもそも民間に委託してまで広報する必要があるのかという批判もあると思います。しかし、行政職員がちゃんと広報をするのはムリがあります。
竹廣さん 自治体のインフラ整備全般をどう広く知らせるのかが課題になっているのだと思います。単発の事業を説明するのは、それぞれそれなりにやっていると思うんです。ただ、インフラ整備、公共事業全体となるとちゃんとやっていない。それをどうやるかが今後の課題だと考えています。
国には広報のスキルもない、手法も知らない
――「土木を広報するなら、まず家族から」という指摘がありますが。
見坂さん 役人は自分の家族にさえ、説明できていない、つまり広報できていないわけです。やっぱり説明能力が足りてないんだと思っているわけです。それを市民の皆さに広報しなさいと言ってもムリですよ。職員が説明しているのをヨコで聞いていても、「ヘタやなあ」と思いますもん。これでわかってもらうのはムリだと。
私も職員に、頑張って上手い広報をさせようとしてきましたが、はっきり言って職員にはムリです。なので、国交省では広告代理店から広報のプロに指導員として来てもらって、その指導を仰ぎながら広報を行うようになりました。そのおかげで、だいぶ良くなってきていると思います。
広告代理店の人は役所の人間と発想が全然違うんです。私自身、広告代理店に行って、議論をしながら、いろいろとノウハウを教えていただきました。ただ、すべての行政職員がそれを学ぶことは不可能なので、やはり、プロの民間会社にお任せするのが良いと思うんです。費用がかかるとしても、それぐらいの経費は捻出しても良いと思っています。
竹廣さん おっしゃる通りだと思います。福岡市の職員に、「土木の素人」である家族に対して、ちゃんと理解できるように説明できるスキルを持ったものは少ないと思います。例えば、職員がつくった市民向けのお知らせなんかを見ると、専門用語のオンパレードだったりします。「これじゃわからんばい」と言ったことがあります。「中学生に読ませて、内容が理解できるぐらいの文章じゃないとダメよ」と。
土木の職員には、誰でも内容が理解できるレベルの文章をつくるスキルが少ない。それに加えて、その内容をどうやって外向きに出したら良いかという手法も知らない。「スキルもない、手法も知らない」のナイナイ尽くしなわけです。これは、議員さん向けの説明資料づくりでも同じことが言えます。
見坂さん 福岡県に来て強く感じたことは、職員の議会答弁づくりがヘタだということです。「誰に向かって話す答弁なの?」と感じることが多々ありました。やはり、県議会議員さんといっても、土木に関しては素人なので、専門用語を並べられても、なんのことか良くわからないわけです。まあ、誤魔化す答弁なら話は別ですが(笑)。「わかりやすい議会答弁にしなさい」ということで、何度か指導しました。県議は県民の代表者なので、「県民に向けて話す答弁でないといけないよ」と。
竹廣さん 答弁をつくる職員は、答弁する内容にどっぷりと入っているからですね。
見坂さん そう、正確に答えようとして、ガチガチの答弁になるわけです。
竹廣さん 昔の話ですが、職員が新聞の記事広告用の文章を持ってきたときに、土木について何も知らないアルバイトの職員に見せて、その職員がわかると言ってから、俺のところに持ってこいと言ったことがあります。
見坂さん 広報研修もありますが、なかなか身につかないところがあります。
業者の言いなりにならないためには、スペシャリストも必要
――公務員技術者は「ゼネラリストかスペシャリストか」という議論があります。
見坂さん ある一定の年齢、40才代半ばぐらいまでは、幅広くいろいろな経験をさせたほうが良いと思っています。そこに来た段階で、人事担当者が判断して、ゼネラリストかスペシャリストかその後の進路を振り分けていくというのが人材育成の基本かと思います。
また、講習会とか研修といった組織外での催しに職員をなるべく参加させることです。役所の中にばかりいるのではなく、外の空気を吸ってくることは大事なことだと考えています。広報で言えば、役所の中だけで広報のことを考えても、頭が固まってしまっているので、広告代理店の人とコーヒーでも飲みながらディスカッションしたほうが、よっぽどタメになりますから。
竹廣さん ゼネラリストかスペシャリストかは、難しいところです。事業分野によると思っているからです。役所人生40年だとすれば、第一線でバリバリ仕事できるのが15年ぐらいで、最後の10年は自分のスキルアップと言うより、後進の育成、指導がメインになります。仕事に必要な技術を身につけるのに使えるのは、せいぜい15年ぐらいしかありません。そう考えると、役所人生は結構短いんです。
道路であれば、幅広く知っておくゼネラリストがベターだと思いますが、水道や下水道という特殊な分野になると、スペシャリストとして育てるのが良いと思っています。ただ、下水道に携わるからといって、全員がスペシャリストである必要は全くなく、何人かいれば良いんです。いわゆる「下水道畑」という背番号がついた人間がいる一方、他の分野も知っている人間もいるというのが、組織としては良いのかなと。
あとは職員本人の希望ですね。入庁10年目ぐらいの職員の話ですが、本人がいろいろな仕事をしたいと言うのであれば、あれこれ担当させながら向いている仕事を一緒に探してやったり、本人がこれをやりたいのであれば、長めに担当させたり、上司として、そういうことが必要だと思っています。これは私がと言うより、課長レベルがやる仕事ですが。
ただ、どうしてもこの職員にこの仕事を担わせたいという場合は、職員に押し付けることもあると思います。本人は気づいていないけど、絶対この仕事が向いているというのがあるんです。私個人の意見としては、そういう押し付けがあっても良いんじゃないかなと思っています。
福岡市の人事の考え方は、一般的な職員の場合、10年間で3つの職場を経験させなさいということになっていますが、技術職員の場合は、「原則として」になっています。こういう文言をあえて付けさせたんです。技術職員は、ある程度長くやらないと、仕事がわからないことがあるからです。私の感覚だと、現場では3年だと通りいっぺんで終わってしまいますが、5年いれば詳しくなるというのがあるんです。
見坂さん 組織の幹部になるような人間は、ある程度ゼネラリストでないとムリだと思います。ただ、組織として、現場のことならゼネコンなどの業者にも負けないという、現場一筋の人間、スペシャリストも必要です。その職員がどちらに向いているのか、それを見極めるのが人事担当者の仕事だと考えています。
私は、役所に入ってもうすぐ30年ですが、そのうち3分の1が人事の仕事でした。地方整備局の技術職員人事、幹部人事のほか、キャリア採用なんかもやりました。実際に人事をやってきた身として、「人事はやっぱり難しい」としみじみ思います。人材育成は永遠の課題という感じがしますね。
竹廣さん 業者の言いなりになると、役所がただのサイフになってしまいますからね。業者を厳しくチェックできる能力がないと困るわけです。土木は経験工学と言える部分も多いので、経験しないと絶対にわからない部分があります。
見坂さん ゼネコン、コンサルタントと対等に議論できる職員の育成は必要です。全員がゼネラリストになってしまうと、業者の言いなりになってしまいますから。
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