首都高の仕事は、技術的、肉体的にも過酷だった

首都高横浜ベイブリッジでの施工の様子(画像提供:荒井さん)
――首都高との関わりが長いんですよね。
荒井さん そうですね、トータルで30年ほど担当し、この間、300名ほどの方々とお付き合いさせていただきました。私の知る限り、全国の都市高速の中で、首都高さんが最も供用条件、施工条件が過酷だと思います。
都市高速によっては、集中工事を行う際、全面通行止めにしますが、首都高さんはまず全面通行止めにすることはありません。過去に1回しか通行止めにしていないと思います。首都高さんが集中工事を行う際には、必ず車線を確保した上で、実施しています。通行止めすると、車両通行に対する影響が非常に大きいからです。常に首都高さんはお客さん第一ですから。
工事も夜間だけであり、時間的な制約も厳しいです。これは技術的にも肉体的にも過酷なことであり、かなり難しいことなんです。一般的な補修工事は夜間で行い、朝の5時には開放が条件です。また集中工事では朝の5時に工事を始めて、翌日の朝5時に終えるといった感じで、非常にシビれるような工事です。私はそういう工事に舗装業者の技術屋として長年関わってきました。首都高さんから「知恵を出せ」と言われて、なんとかひねり出してきたんです。
――首都高は舗装も傷みやすいのでしょうか?
荒井さん それは傷みやすいですね。昔は過積載も多かったですし。そもそも幅員が狭く、通行車両はほぼ同じところを走るので、わだちができやすいということもあります。首都高で一番狭いところは幅員が3.25mしかないんです。すぐ横を車が走る中、コーン1つ置いて、工事をやるわけです。
――予定通り工事を終えられなかったこともあったわけですか?
荒井さん それは何回もありました。急に雨が降ってきて、工事を止めざるを得なかったとか。そういうときは、予備合材で埋めて、仮復旧させておいて、翌日再チャレンジしましたね。
舗装は現場を見ないと始まらない

首都高レインボーブリッジでの施工の様子(画像提供:荒井さん)
――現場に出ていたんですね。
荒井さん それは当然です。舗装には、「現場を見ないと始まらない」ところがどうしてもあります。私はおそらく、舗装会社の技術屋としては、首都高の現場に一番多く立った人間だと思います。首都高2号線以外はすべての路線の現場に立ってきました。役員になるまで、ずっと現場でしたから。
材料会社でも現場に多く出ている技術者の方々がいらっしゃいますが、会社は違えど、そういう方々は「戦友」だと思っています。また首都高さんにも舗装を熟知された方がいて、その方と現場で課題を一緒に解決しながら規制解除を迎える時は達成感がありますね。
――首都高で思い出に残っている現場は?
荒井さん 首都高の鋼床版SFRC工事でしょうかね。アスファルト舗装を撤去して、鋼床版面を露出させ、ショットブラストで鋼床版面を研掃し、その後接着剤を塗布してその上に超速硬コンクリートを打設。その上に防水層施工後、表層舗装を施工して開放。これを24時間で3工区同時にやる。
隣を一般車が走行する中で、各工区を技術指導していく。5年間で延べ60回参加しましたが、総勢100名以上の人々が時間を見ながら作業を行うわけです。疲労困憊の中で交通開放を迎える。この仕事が一番思い出深いですね。
経験を積むと、「解」に近づける
――舗装工事の魅力は?
荒井さん 「舗装に同じものはない」ところですかね。舗装は、気象条件、施工条件、交通条件のどれかが異なると、まったく別のものになります。似たようなものであっても、違うものなんです。過去にやった「工事の引き出し」を開けながら、ドンドンやっていくんですけど、条件が常に違うので、間違えたり、失敗したりします。毎回、「解」が違うわけです。ただ、経験を積むと、「解」に近づくようなところがあります。それが舗装の面白いところですね。
――舗装がキレイに仕上がったら、達成感を感じるということはありますか?
荒井さん もちろん、舗装の平坦性は良いに越したことはありませんが、平坦性に多少難があったとしても、耐久性には問題はありません。舗装の見た目の仕上がりのキレイさだけを重視するのは、なにか違う感じがします。あとで問題が起きる可能性があるからです。
極論すれば、ラインがキレイなら、舗装もキレイに見えるんです。逆に、ラインを間違えると、舗装も汚く見えます。でも舗装の耐久性は変わりません。
ちゃんと基準に入っている材料でも、検査員によっては「粗過ぎる。やり直せ」と言われることがあるんです。でも、舗装の耐久性でいけば、交通荷重を考えると、その材料のほうが間違いなく良かったりするんです。しかし、見栄えは悪い。そういうこともあるんです。その辺は、正直ジレンマがありますね。
――プライベートでも舗装が気になったりすることはありますか?
荒井さん それはありますね。悪い舗装を見ると、その原因がだいたい分かるので、「ここでフィニッシャが止まったんだな」とか、「ここは合材が冷えて大変だったんだな」とか、「現場監督はここをこうすることで、なんとか切り抜けたんだな」とか感じることがあります。
「部分最適」ではなく、「全体最適」へのシフトが必要
――ちょっといじわるな質問になりますが、新橋建設などの場合、舗装の仕事は、「最後の付け足し」みたいな感じで言われることがありますが、その点どうですか?
荒井さん 土工屋さんからは、舗装屋は「塗装屋」と言われてたりするわけです。ただ、橋梁の上部工の仕上がりがヒドくて、舗装厚がとれないケースもあったりするわけです。(もちろん規格に入っていますが)舗装厚は75ミリが標準なのですが、20ミリしか厚がつかないことがあります。逆に、100ミリ以上舗装をもらないと、高さが合わないケースもあったりするわけです。そういうものも含め、全部背負ってやるのが舗装の仕事なんです。
日大の岩城先生の発案で、少し前に「三位一体研究会」というのをやったんです。発注者、橋梁メーカー、防水メーカー、舗装会社が一緒になって勉強会を開いたんです。橋梁メーカーさんは、良かれと思って、コンクリート養生のためにポリマーをいっぱい噴霧します。ところが、舗装会社にしてみれば、その上に高機能防水を施工する場合、ポリマーが悪影響を及ぼすので、わざわざポリマーをブラストで除去した上で、舗装することがあります。
結局、それぞれの立場で「部分最適」をやっているわけです。しかし、大事なのは構造物全体が持つかどうかという「全体最適」なのです。原点に立ち返って、それをもう一度勉強しましょうというのが研究会の趣旨でした。
構造物全体から見れば、舗装は添え物に見えるかもしれませんが、供用すれば舗装が車との接点になるわけです。大事なことは、道路管理者に負担をかけないことです。それをちゃんとやるためには、橋梁メーカーと舗装会社などが意見を交わす必要があると考えています。
例えば、上部工の床版が不陸のままでは、舗装厚がちゃんとつかないことがあります。そういうことがないよう、発注者を含め、橋梁メーカー、舗装会社が一緒になって問題解決できる仕組みづくりが必要だと考えています。また、そもそも、舗装を上面に施工する必要のない平滑なコンクリート床版ができれば、そのほうが道路管理者にはメリットがあるかもしれません。そのような検討をそろそろしていかないと、いつまで経っても「部分最適」のままが続くと危惧しています。
ここは、「私がもうちょっと若ければ」と歯がゆい思いをしているところなんですよ(笑)。
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