一つの部落から集められた作業員
色んな現場を経験したが、中でも印象的だったのが中東の現場だ。
ここに集められた作業員たちは、一つの部落から来た人たちで、みんな仲が良く、助け合いの気持ちが強いのは素晴らしかったのだが、水平・垂直・平行だとか基本的な概念を持ち合わせていない人たちがほとんどだった。
作業員を手配する人間が、現場近くの村の長老に声をかけ、お金を渡して、まとめて何人かをトラックに乗せ、出稼ぎ名目で人を集めてきたからだ。
人を手配してもらう際、鉄筋・コンクリート打設・型枠などの主要な仕事には、最低限1回は関わったことがある人を集めてほしいと伝えていたため、淡い期待を胸に、集まった人たちに「何ができるの?」と問いかけてみた。
すると、若者2人が胸を張って「鉄筋の仕事をしたことがある!!」と答えてくれた。「何をやったの?」と聞くと、一人は「トラックで運んで来た鉄筋を運んで、数を数えて、並べるのが俺の仕事だった!」と答え、もう一人が「鉄筋を四角に曲げて、現場に運ぶ仕事をした!」と答えた。
さらに、コンクリート打設に関わったと言う人の話を聞くと、「俺は砂担当で、練る前に砂を5杯バケツに入れ、ミキサーに投入する役割だった!」と現場練りの様子を話してくれた。
型枠の設置に関わったと言う、大工と名乗る男性に話を聞くと、「俺は型枠の角部分の隙間にモルタルを詰め込む作業をやった」と答えた。「型枠を解体する時にそのモルタルはどうだった?」と聞くと「OK!」と言うので、「あとで表面から洗い流すが、大変じゃなかったか?」と聞くと、「NO!NO!OK!」と身振り手振りで説明してくれた。日本の現場と違い、表面の凹凸などは大した問題ではないのだろう。
海外の現場で集まる作業員は、おおよそこのレベルだと思っていれば気も楽である。私の経験上、下手に期待せず、最初は何もできなくても素直でさえあれば何とかなる!と思っている(笑)。
作業員たちがどんなレベルでも、出発点がハッキリすれば手の打ちようがある。だが、物事を教えるための時間は無制限にあるわけではない。本来であれば、理由を説明し、彼らが納得してから役割分担を決めたいのだが、実際はそこまで時間をかけていられない。
じゃあ、どうするのか?
全員ほぼ素人。役割分担はどうする?
まず、一番手間暇のかかる鉄筋の加工・組み立て作業のあらましを全員に説明する。説明しながら、彼らの目つきや態度、表情、反応などを見ながら、その中から4~5人ほどリーダーにふさわしい人物を探す。
この時、彼らに鉄筋の切断の長さを書いた図面を渡す。図面に書かれた寸法をメジャーで読んでもらう。全員が数字を読めるわけではないので、誰が読めるのか見極める。そこから鉄筋にチョークで印を付け、切断していくのだが、これは非常に危険な作業なので、その機械がちゃんと使える人を探す。
ちなみに、備品の手袋や安全眼鏡を渡しても、翌日になると無くなっていることが多いので注意したほうが良い。どうやら金目のモノはすぐどこかで売り払ってしまうらしい。
「昨日渡したのにどうしてないんだ?」と聞くと、口にモノを入れる仕草をして、”食べ物に変わってしまった!”と悪びれずに話すので、怒ろうにも怒れなくなる(笑)。
一通り説明した後で、鉄筋の切断をする人たち、曲げ加工をする人たち、組み上げる人たちに分け、さらに詳しい説明をしていくのだが、その時、技術的な話と共に彼らに必ず話すことがある。
「この技術を覚えれば、これから先、この現場が終わっても他の建設現場で働ける。仕事がちゃんとできるようになれば給料も上がり、自分も、家族も、もっと美味しいモノを食べられる。だから、これから私の言う事を一生懸命覚えてほしい!分からないことがあれば、どんなことでも聞き、わかるまで聞け!自分と自分の家族のために一生懸命やれ!
今まで色々な国で、あなたたちと同じような人たちが半年後や一年後、立派な職人になって建設現場で働くようになったのをたくさん見てきている。彼らにできて、あなたたちにできないわけがない!私はここに一年間しかいない。その一年で立派な鉄筋職人になれるように頑張ってほしい!」
どこまで伝わっているかは分からないが、真っ直ぐ目を見て話を聞く彼らを見ていると、絶対に完成させてやる!という熱い気持ちが芽生えてくる。そこから手探りだらけの施工が始まるのだ。