発注者である国交省がやると言っているなら、ICTは当たり前になる
――今と比べて情報が少ない当時、よくその決断ができましたね。
吉川社長 私は当時、埼玉県建設業協会の青年部に所属しており、国土交通省や関東地方整備局の方々と直接お話する機会がある立場にいたので、「国交省さんはICT施工に対して本気だな」という感覚を持っていたからです。とくに、組織の上の方になればなるほど、ICTに対する本気度が強かったんです。
昔、国土交通省が「社会保険をやる」と言ったとき、当時の建設会社の社長は「そんなことはできない」と思っていましたが、今では当たり前になっています。それと同じく、国土交通省が「ICTをやる」と言っているのだから、「ICTもきっと当たり前になる」と考えていたわけです。
――ICT施工に対する社内の抵抗はありましたか?
吉川社長 それはありました。とくにベテラン社員は、新しいICT技術に対して敬遠する傾向にありました。そこで私が考えたのは、現場に過大な負担をかけずに、ICTによって、生産性を向上させて、現場をラクにする、ということでした。この考えのもと、ICT施工の内製化を進めるため、i-Construction推進室を設置しました。
――新たに専門部署をつくったのですか?
吉川社長 新たに部署をつくったというわけではありません。もともと積算や購買、工事サポートなどを担当する部署がすでにあったのですが、そこの社員が「ボクがやりますよ」と手を挙げてくれたので、そこに任せたという感じでした。しばらくしてから、i-Construction推進室に改めたという流れです。
【PR】なぜ施工管理技士の資格は「転職=給与アップ」に有利なのか?
I-Con大賞受賞という栄誉をもらった以上、他社にも情報提供すべき

i-Construction大賞 優秀賞のタテを持つ吉川社長
――他の建設会社は当時、どんな感じでしたか?
吉川社長 やはり、「金杉建設が先行してやっているな」という感じがあったと思います。今思えば、非常に良いタイミングでi-Construction大賞の優秀賞をいただいたと思っています。i-Construction大賞は入札の総合評価に対する加点などはなく、名誉だけでしたが、その名誉をいただけたのが、一番大きかったです。
というのも、「そのような名誉をいただいた以上、ICT施工に関するノウハウは、金杉建設一社だけのものではない、他の建設会社にもドンドン情報提供していくべきだ。i-Construction大賞の受賞には、そういう意味合いがある」と考えるようになったからです。
そこで、当時飲み会などで他の建設会社の同年代の人間などと合うたびに、「なんでICT施工しないんだ」、「なんでICT施工に関する機器を買わないんだ」という話を散々していました(笑)。
――反応はどうでしたか?
吉川社長 「そう言われても」という反応が多かったですが、中には、「その通りだよね」ということで、地上型3Dレーザースキャナーを買ったり、ICT建機を買ったりする会社もありました。
――国土交通省以外の発注者の工事でもICT施工をやってきたんですか?
吉川社長 そうです。ICT施工の指定でもなんでもない工事も、ICT施工でやっています。こちらから「ICT施工でやります」と提案して、ICT施工を行っています。内製化によって、機械のリソースがあるので、普通の工事もICT施工することができるようになっています。工事そのものも省力化することができています。発注者との打ち合わせも3Dモデルを使ってやっているのですが、非常に理解してもらいやすいというメリットもあります。非ICT施工でやることもありますが、基本的にはICT施工を積極的に使って、PRしていこうとしています。
小さな工事でも、工夫をすれば、採算が合う
――ICT施工するなら、ある程度規模が大きな工事でないと、利益が出ないので、できないという意見がありますが、どうお考えですか?
吉川社長 その手の意見は、ある面では正しいですが、ある面では間違っていると思います。重機や測量機器の外注費、リース代はけっこうな金額になるので、確かに、1日当たりの施工量がそれなりのものでないと、採算が合いにくいという面はあります。単体工事として受けると、利益を出すのは難しいでしょう。
しかし、たとえば、ある程度の規模の工事があって、各工種の数量が少ないが、各工種においてICT施工が可能な場合は、話が変わってきます。たとえば、各工種の数量が少ない場合でも、それぞれの工種で3次元設計データを組めば一貫したICT施工が可能になります。当社では、従来型の建機にICTシステムを後付けしてICT建機化することに慣れているので、ICTシステムを小型建機に後付けすることで、採算的にも合うということもあります。小規模工事でのICT施工については、国土交通省さんなどに対し、技術的にさまざまな提案をしてきており、ガイドラインなどを策定していただきました。
私としては、工事の規模が小さいので、ICT施工ができないというのは、ICT施工というものを知らないので、そう言っているのにすぎないと思っています。つまり、「ICT施工を知らないがゆえの言いわけ」だと思っているということです。
たとえば、私が知っている埼玉県内にある建設会社さんは、地元自治体発注の比較的小さな工事を多く請け負っているのですが、小型のICT建機などを導入して、ICT施工をやっています。
――「言いわけ」というご指摘は大変興味深いです。ただICT施工をやりたくないだけのような気がしますが。
吉川社長 そうかもしれませんね。
参考になります!
土木だと工種が少ないので比較的、中小企業でも対応しやすそうですね。