俺の目が黒いうちは、月給制にはさせん
――会社を引き継ぐに際して、先代から託された言葉とかはあるのですか?
礒部さん 亡くなる4ヶ月前に「もう報告せんでえいぞ。お前が考えて決めたことならそれでいいから」と言われました。この言葉は自分の大きな支えになっています。先代に「初めて」と言っていいぐらい全面的に肯定してもらったこの言葉がなかったら、自分を信じて社長業をやれてなかったかもしれません。
ただ、基本的には、先代と私は意見が合わないところがあるんです(笑)。なぜか私の言うことだけ頭ごなしに「ダメ」と言われるので、よくケンカしました(笑)。
――たとえば、どういったことでダメ出しされたのですか?
礒部さん 4年ぐらい前に「社員全員を月給制にしたい」と言ったら、ダメだと言われました。働き方改革に取り組み、休みが増えていくと日給の人の年収が下がることも考えられるし、学校では土日休みが当たり前だった今の若い人を確保するには週休2日への移行と月給制は必須だと考えたからです。それをずっと言い続けたのですが、断固拒否。「俺の目が黒いうちはさせん」とまで言われました(笑)。
でも、ちょうどそのころ、社員がどんどん辞めていきました。会社の経営自体はスゴく良い時期だったのですが、数年の間に全社員の3分の1がいなくなってしまいました。そのうちの一人が、はっきりと給与形態に対する不満を言って辞めていきました。それもあって、やっと先代からOKをもらい、会社の規定を変更して、3年ほど前に全社員を月給制にしました。結果的には、人が辞めて会社が危機を迎えたことで、やっと月給制に変えられた感じです。事前にヒアリングを行ったので、社員から特に不満は出ませんでした。
「社長」はただのアダ名
――社長になって半年ちょっとですが、慣れましたか?
礒部さん やっと周りから社長として認識してもらえるようになったかなという感じです。先代が亡くなるぐらいまでは、まだ先代のほうを向いて仕事をしている感じがありましたが、最近は社長は私だと認識してくれていると思っています(笑)。
――対外的な反応はどうですか?
礒部さん ここ2、3年間は業界の集まりなどにほぼ顔を出していないので、よくわかりません。この間、飲み会の誘いはすべて断ってきました。万が一にも先代にコロナを感染させてはいけないからです。おかげで「あいつは付き合いが悪くなった」と言われました(笑)。先代の病気のことは周りには伏せていました。ちょうど自分が結婚したタイミングと重なっていたので、「嫁の尻にしかれているから飲み会に来ない」と言われていたようです(笑)。
――あまり変化は感じていないということですか?
礒部さん そうですね。前にある人から「社長(先代)がエラいだけで、あんたがエラいわけじゃない」と言われましたが、それはその通りだなと思いました(笑)。今はまだ「社長」はアダ名ぐらいに思っていて、これから「社長」という肩書に見合うようになっていかなくてはと思っています。社長になったから急に偉くなったりするわけでもないですし、変なカン違いをしてはいけないなと思っています。その気持ちはこれからも忘れないようにしたいですね。
――社長として、なにか会社で変えたことなどはありますか?
礒部さん 今のところ2023年4月から週休2日制にすることぐらいでしょうか。まだ自分の考えだけですべてを決めることに対して、少なからず不安はあります。そういう意味では、先代がいたときは、違う頭で考えてくれる存在がいたので、ありがたかったなと思います。
――リクルーティングや人事についてはどうですか?
礒部さん なにが正解かは、人によって違ってくるものなので、難しい面がありますが、社内でのコミュニケーションの重要性は改めて感じています。給与体系を変更した直後から、全社員と個人面談をするようにしました。やり始めたころは、不平不満の話ばかりで、正直ツラかったですが、何回か面談をしていく中で、挙がってくる不平不満は「ここが変わればよくなる」という現場からの声だということに気づきました。それに対応したり、できない事はなぜできないのかきちんと説明することで社員が余計なストレスを抱えることなく、仕事に向き合えるようになれればと思っています。
――社長になって新しい社員は何人採用しましたか?
礒部さん 3人です。今年の春には高卒生1人が入社します。あと何人というのはありませんが、若い人を採用するのが大事だと思っています。1現場に最低2人ぐらいは配置したいし、ICTを任せられる人が欲しいというのもあります。
――ICTのお話がありましたが、設備投資に対するお考えをお聞かせください。
礒部さん 最初にICT機器を購入したときは、この投資がどこまで役に立つのか、正直わかりませんでした。実際に使ってみることで大幅な省力化・効率化につながることがわかりましたが、使ってみないとわからない部分があるので、判断が難しい面があると感じています。ただ、現場の人から「これを使いたい」と要望があがってきた機器は、できる限り取り入れてあげたいと思っています。常に最先端の機器をそろえるというわけにはいきませんが、ウチの会社に合うモノかどうかを選別して、導入していきたいと思っています。
お客さんを満足させるためには、社員を満足させる必要がある
――礒部組をどういう会社にしていきたいですか?
礒部さん 私としては「地域に愛される会社であり続けたい」という思いがあります。ある人から教えてもらった話なんですが、数年前に発注者による地元説明会があり、地域の方と議論が白熱してなかなか話が進まなかったことがあったそうです。会の最後に「で、どこが工事するがで?」と聞かれた発注者が礒部組が受注したと言ったら、「ああ、礒部組ならええわ」とすんなり納得してくれたそうです。
この話を聞いたときに、先代たちが築いてきたこの会社が地域に愛され、信頼されていることがわかり、誇らしく感じたと同時に、この信頼を守り続けていかなければならないと改めて思いました。
そのためには、「良い仕事」をするのが大前提になります。その良い仕事を実際にするのは、私ではなく現場で作業する人たちです。エンドユーザーである住民や発注者に満足してもらうためには、まず社員に満足してもらう必要があると考えています。社員に満足してもらうためには、「この会社で仕事をしたい」と思ってもらえるような会社である必要がある。そう考えています。トップダウンではなく、違うやり方でそういう会社にできないかと試行錯誤しているところです。まだまだ手探り状態ですが。
「やりたいようにやれて仕事が楽しい。最高の会社だ」と思っている満足度100点の社員は、経営者である私も含め、いないと思います。もしそんな人がいるとしたら違う考えの別の誰かにとっては「やりたいようにできない、最低の会社だ」となってしまう。そんな風に特定の誰かにだけ我慢を強いるような会社ではいたくないのです。
みんなが平均点という言い方はおかしいですが、20点分はみんなが譲り合って、誰もが80点ぐらいの満足度を得られる会社を目指したいと思っています。誰か1人にとって100点の会社ではない、ということですね。そういう会社にするためには、常に変化し続けていく社会に、柔軟に対応し前進し続ける会社でなければなりません。「絶対にでき上がることがない」という意味で、一生追い求めていく姿勢が大事だと思っています。
地域に愛される会社と言いましたが、自分で言っておきながらも、けっこうぼんやりした言葉です。われわれが関わる道路や河川といった仕事は、誰のためにやっているのか、相手の顔がイメージしづらいからです。イベントやボランティア活動に参加することなどを通じて、地域の方と社員とのつながりをもっと深めたいと思っています。社員の心の中に「この人のためにこの仕事をやっている」という気持ちが芽生えれば、仕事に対する意識が変わってくるからです。と言うのも、私自身そういう経験をさせてもらったからです。
――どういう社長になりたいというのはありますか?
礒部さん 先代に対する憧れはありますが、性格的にも違うし、私にはカリスマ性もないので、先代のようにはなれないと思っています(笑)。先代の真似事をするのではなくて自分のやり方で、社長像を追い求めていけたらと思います。ぼんやりした言い方になりますが、「社員と目線を合わせられる社長」になりたいですね。たとえば、言いたいことがあったら、気兼ねなく言い合えるような関係でありたい、ということです。
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個人的には非常に良い記事だと思いました。
こういった会社を行政が支援してあげれば建設業界もよくなるんじゃないかと思います。
今の時代保証がないので安定を求めるのなら月給制ですね。
ただ雨が降ったらお金が支払われ無いという理不尽があったりしますよね?
行政関連の人たちはそれを当たり前のだと思っていますがそれはまちがいです。
業種によっては雨の日で作業をした場合どうなります?
品質不良になる可能性ありますよね?
それでも補填がない世の中w
おかしいと思いませんか?
会社都合の休日は休業補償になりますよね?
建築業界にはもっともっと保証が必要だと思いますw!
茶化し気味ですが自分おかしい事いってますかね?