株式会社一条工務店(岩田直樹社長)の「浸水試験システムで実証した水災から暮らしと財産を守る耐水害住宅」が、(一社)日本建築学会主催の「2023年日本建築学会賞(技術)」を受賞した。日本建築学会からは、「耐水害住宅という新しい概念の確立とさまざまな独創的要素技術を開発し、今後の水害対策として住宅建設業のみならず広く社会に貢献するものと認められる」と評価された。2002年に創設された「技術賞」の歴史の中で、住宅メーカーが受賞したのは史上初の快挙だ。
「耐水害住宅」とは、居住空間に影響を与えず、水害による浸水・逆流・水没・浮力にそれぞれの対応策を施した初の住宅だ。2020年10月には、国立研究開発法人防災科学技術研究所にある大型降雨実験施設で耐水害住宅と一般的な仕様の住宅を実験施設内に建築して実大実験を実施し、約3,000tもの水を使って豪雨・洪水被害を再現し、耐水害住宅が浸水に強いことを証明した。2020年9月から販売を開始し、現在までに1,700棟を施工しており(2023年9月現在)、2022年9月の台風でも静岡県内の浸水エリアに建つ3棟の耐水害住宅は床上、床下とも浸水なしといずれも実力が証明された結果になった。
今回は、開発に尽力した、和木洋さん(H.R.D. SINGAPORE PTE LTD研究開発部)、黒田哲也さん(一条工務店 工事・免震グループ)、高橋武宏さん(一条住宅研究所)の3者にインタビューした。

左から、和木洋さん、黒田哲也さん、高橋武宏さん
「平成27年9月関東・東北豪雨災害」で開発に動く

「平成27年9月関東・東北豪雨災害」での被害 / 出典:国土交通省関東地方整備局
――現在、風水害が激甚化している中で、「耐水害住宅」を実現した意義は大きいと考えます。開発の背景からお願いします。
黒田哲也さん(以下、黒田さん) 2015年(平成27年)9月に栃木県・茨城県の鬼怒川流域を中心に記録的な大雨が降りました。この地域にも一条工務店のお客様が多くおり、その方々の被害の調査後、水害に負けない住宅を開発すべきだと会社全体で考え、結果として商品化に至りました。
甚大化する水害から、戸建住宅・付帯設備・家財という住民の財産や暮らしを守り、経済・体力・精神的負担を軽減する意義は非常に大きいものです。復旧工事では床下浸水で50万円、床上浸水で600万円を要します。当社の「耐水害住宅」は、建築費用全体の数%の費用で実現し、1回の水害で費用回収が可能です。これからは、耐水害住宅をより多くの顧客に知っていただけるようにつとめていきます。
高橋武宏さん(以下、高橋さん) 一条工務店の創業の地は、静岡県・浜松市です。ここは40年前から東海地震が来ると言われてきた地域です。歴史的経緯からも住宅の耐震性能には他社には負けないとの自負を抱きながら、耐震関係の研究を一貫して行ってきました。その後、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震などが発生しましたが、その度に調査を実施し、改善を重ねながら当社の住宅はより強靭に進化していきました。
耐水害住宅実験でも同様ですが、部分実験ではなく実大の住宅を揺らす耐震実験をこの30年間かけて実施してきました。そんなときに、「平成27年9月関東・東北豪雨災害」が発生しました。1年を通した降雨量の変化はそれほどありませんが、雨が降るときと降らない時の格差が拡大しており、それに合わせて水害に苦しむお客様の声が届くようになっていました。
耐震研究が一段落したときに風水害をはじめとする複合被害が拡大し、我々の耳にも届くようになったことが、耐水害住宅の研究に本腰を入れ、克服を目指すきっかけとなりました。
和木洋さん(以下、和木さん) 「平成27年9月関東・東北豪雨災害」を受けて、黒田氏が研究を開始したのですが、私は「浸水深1m程度の耐水害住宅をつくることは可能だが、それ以上となると建物の重量や建物にかかる浮力の点を懸念しており、当時は浸水深5mの水害でも対応できるとは思っておりませんでした。いざ開発が進展すると、住宅が浮上する点を実大実験で検証するために、途中から私も研究開発に加わりました。
2015年から風水害に対する世間の関心も高まり、それに追いつくように政府は2020年前後から「水防法」「都市計画法」「宅地建物取引業法」と関連する法律を一斉に改正しました。一条工務店としては一連の法改正と同時期に、耐水害住宅を商品化していますので、世の中の需要にスピード感をもって応えることが出来ました。