YKK AP株式会社(東京都千代田区)は、窓事業ブランド「APW」シリーズで新たに国産ヒノキの集成材を利用したトリプルガラス木製窓「APW 651」の大開口スライディングを発売した。再生可能資源である国産木材を使用し、木製ならではの上質感のある意匠性とトリプルガラス仕様による高い断熱性能を兼ね備え、耐風圧性S-5等級・水密性W-5等級を有し戸建木造住宅や集合住宅などの非木造建築物にも対応可能な仕様の木製窓を開発。樹脂窓などの高断熱窓とともに使用することで住宅の更なる高意匠化・高断熱化を目指す。
「APW」とは、生活者視点に立った窓生産の実現を目指すYKK APの窓事業ブランドを意味する。「APW 651」の特長は、雨や紫外線の影響を受ける室外側が、アルミで被覆したアルミクラッド構造で、耐候性・耐水性に優れる。さらに室内側の木部の塗装は、下塗りで含浸塗装着色を用い、その上に2 層のクリアコートを十分に塗布し、木目を綺麗に見せながら、傷が付きにくく、紫外線や水分から木部を守る。国産ヒノキの美しい木目の表情が活きる高耐久な塗装仕上げで、上質な空間を演出。
カラーバリエーションは、室内側木部にはインテリアに合わせやすい3種の塗装色、室外側はアルマイト仕上げの4色と、木調ラミネート仕上げの3色(2色は10月発売予定)を用意している。2つの中空層を18mm にアップしたアルゴンガス封入総厚45mm のダブルLow-E トリプルガラスを採用し、熱貫流率0.99W/(m2・K)とトップクラスの断熱性能を実現した。
RC 造などの非木造建築物に対応した専用部材を設定。耐風圧性S-5(2,400Pa)、水密性W-5(500Pa)などの性能により、10~15階程度の高さの非木造建築物に使用可能だ。自然や木を活かした空間に調和する素材感を活用し、集合住宅のキッズルームやゲストルームなどの共有部や居室部のリビング、また宿泊施設などに高い断熱性と天然木のぬくもりによる新たな付加価値を提案する。
魚津彰社長は、2023年末の記者会見で2024年度にトリプルガラスの高性能木製窓の発売を表明してきたが、脱炭素の視点から見て戸建て住宅や非木造住宅にとっても重要な商品といえる。
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0.3%の割合に留まる日本の木製窓

「APW 651」の施工イメージ(ミディアムウッド)
木製窓は樹脂窓と同様に断熱性能が高く、木素材ならではの風合いが好まれることから、住宅の断熱基準が高い世界の国々では多くの住宅で採用されている。一方、日本では高価格で木部のメンテナンスが難しいなどの理由から、あまり普及していないのが現状だ。しかし昨今、木の素材感へのニーズ、再生可能でサステナブルな資源、国産材利用促進の動きなどから建築物の木質化が注目されており、さらに高断熱窓に対する需要から、木製窓への関心が高まっている。
脱炭素・カーボンニュートラルの実現に向けた家庭部門における温室効果ガス排出量の削減に向け、YKK APは「APW」樹脂窓シリーズの発売から15 年間、開口部の高断熱化を推進してきた。日本の樹脂窓比率はこの15年間で伸長を続け、材質別構成比で22%となった。そして新たなチャレンジとして、木製窓の開発に取り組んだことが開発の背景にある。
「新たな顧客価値の提供」の一環で木製窓事業へ参入

記者会見する魚津社長
記者会見の冒頭、魚津彰社長が登壇。YKK APは2023年3月に2030年までの戦略「Evolution2030」を発表したが、その中で「Architectural Products」の進化により世界のリーディングカンパニーになるとともに1兆円の売上高を目指す。戦略では3方針を示し、そのうちの一つ「新たな顧客価値の提供」の一環で木製窓事業への参入を果たした。
2023年度の実績では樹脂窓が35%、アルミ樹脂複合窓が44%と、高断熱窓が79%を占める。これを2024年度には樹脂窓が41%、アルミ樹脂複合窓が49%と、高断熱窓を90%までに拡大する。さらに2030年度には、木製窓20%、樹脂窓50%、アルミ樹脂複合窓30%とする。
「かねてから窓の会社はいずれ木製窓にシフトすると考えていた。窓の高断熱化も進み、等級も上がり、意匠性を考え、さらにアルミであればリサイクルも考えなければならないため、木製窓の比率20%に向けてアイテムを充実する」(魚津社長)
日本全体での木製窓の比率は0.3%で、樹脂窓が22%、アルミ樹脂複合窓が58%、アルミ窓19%という割合だ(YKK APの調査による)。
これに比べ、世界の木製窓の比率は、アメリカがアルミクラッド含み32%、中国でのアルミクラッド他は20%、ドイツは14%、フランス13%と、断熱基準の高い欧米では木製窓は主要な選択肢の一つとなっている。

施工イメージ(ダークウッド)
日本の断熱等級は2022年3月まで4が最高等級だが、2022年4月に等級5、同年10月に等級6と7が新設。2025年以降に新築する住宅では、断熱等級4以上の義務化を決定した。
「ここに来て日本も基準を上げているが、海外と比べると従来の基準が高くないのが実情だ。また木製窓の価格が高く、日本は高温多湿な国のため、木の腐食やメンテナンス性などが日本と海外諸国の普及に差があった要因といえる」(魚津社長)
これまでYKK APは住宅の高断熱化を推進してきたが、9⽉30⽇に中⾼層建築物に対応するアルミ樹脂複合窓「EXIMA 55」を発売する予定で、ビルの高断熱化にも本格的に着手、住宅・ビル両分野での高断熱化をさらに進める持続可能な社会の実現に貢献していく。
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住宅ではリビングと寝室、ビルでは共用部を狙う
YKK APは住宅に木製窓を使用している80社の顧客にアンケートを取ったが、一番多い採用事例は「1点使い」で、とくに「リビング」や「寝室」が多かったという。そこでターゲットとしては、現在、樹脂窓を使用しているハウスメーカー、ビルダーなどでの1点使いを狙う。次にビルでは共有部に向けて提言する。
「サステナビリティに視点を置く設計事務所やデベロッパーの段階から提案していきたい」(魚津社長)

会見で商品説明を行うYKK AP上席執行役員の姫野賢・商品開発本部長
続いてYKK AP上席執行役員の姫野賢・商品開発本部長が商品開発の背景や内容を解説した。YKK APはこれから最低ラインを断熱等級5と考え、2030年ごろには義務化の観測を語ったものの、生活者の健康、快適性を考えると断熱等級6以上を目指すとした。そこで樹脂窓の拡販につとめてきたが、木製窓の発売でより高断熱性・意匠性・持続可能な社会への貢献が果たせると考え、今回の投入に至った。
国産ヒノキの集成材で強度のバラツキを克服
商品の特長ではメンテナンス性に配慮。木材特有のバラツキと環境劣化の抑制の構造では国産ヒノキの集成材を採用し、自然由来材料に起因する強度のバラツキを克服する。次にアルミクラッド構造の採用で、紫外線による塗膜の劣化や色褪せをガードする。
高意匠性では国産ヒノキの美しい木目の表情が活きる高耐久な塗装仕上げだ。木部の色はインテリアに合わせやすい3色でさまざまなインテリアに調和する、彩度を抑制したカラーバリエーションだ。

国産ヒノキの上質な意匠性
とくに大きな注目点は高性能化で、S-5、W-5、H-8等級を実現し、住宅からビル領域までをカバーできる高スペック仕様を実現する。施工でも枠形状の工夫と吊りこみ方式の変更により、省施工や信頼性の高い防水施工、独自の障子吊り込み構造を実現した。さらには非木造建築物への展開も可能だ。RC造への木製窓の納まり事例も提示し、自然や木を活かした空間に調和する「天然木の温もり」による新たな付加価値も提起した。
「住宅やビルの顧客にもご意見をうかがうと、反応が実にいい。たとえばビルの共用部に使いたい、リゾートマンションに採用できないかなどの引き合いの言葉をいただいている。今後、ビル領域への対応力を高めていきたい」(姫野氏)
「小さくはじめて、大きく育てる」
今後は、住宅・ビルともにワンランク上の高断熱・付加価値の提案に注力していく。新築戸建てであれば、リビングに木製窓を使用し、トリプルガラス樹脂窓「APW 430シリーズ」との組み合わせでインテリア性を向上。集合住宅であれば、共用部に木製窓を設置し、住戸部には9月に発売するアルミ樹脂複合窓「EXIMA 55」を組み合わせることで1棟丸ごと高断熱化を推進するなどの事例を挙げた。
木製窓についてはまず国内で販売するが、YKK APは日本、北米、中国、アジア地域を中心に12ヶ国/地域で事業展開しており、今後はM&Aも視野に海外での販売も検討する。
「海外で販売するとしたらアジアが中心。さらにローコスト化の観点では、仕入れはグローバル調達も考えられる。新たに現地法人としてYKK AP中国投資社(上海市)は、グローバル事業拡大に向けた調達力強化のため、YKK AP上海国際貿易社を設立し7月1日に事業を開始する。まず小さくはじめて大きくしていく」(魚津社長)
ちなみに販売地域は全国で、2028年度には57億円を売上目標金額に設定している。