【美保テクノス】「FULL-BIM」への挑戦

FULL-BIMでチャレンジした美保テクノスの新社屋
第2部は「BIM・CIMの対応/インフラ分野のDX戦略」がテーマだ。冒頭、美保テクノスが「地方ゼネコンのBIM」をテーマに野津健市社長と竹内智恵・BIM戦略部課長が発表した。
美保テクノスは、鳥取県米子市に本社を置く、老舗の地域建設会社。従業員数は約220名で売上完工高は年間100億円で推移、鳥取県内では有数な規模のゼネコンだ。
2018年に「BIM戦略部」を設置し、地方ゼネコン型BIMの実現に踏み出した。また、2022~2023年にかけて美保テクノス自身が発注者の立場となる案件が2件同時に進行した。一つは、「鳥取県西部総合事務所新棟・米子市役所糀町庁舎整備等事業」。これはPFI事業で同社が特別目的会社の代表企業をつとめたため、発注者の立場となった案件だ。二つ目は53年ぶりの建て替え工事となった、同社新社屋新築工事。両案件とも、すべての建築生産プロセスでBIMを活用する「FULL-BIM」で対応している。「同時期に発注者の立場でFULL-BIMで思う存分チャレンジできたのは、極めて幸運であった」(竹内氏)
この2物件を通じて次の15項目に挑戦した。①お客様要求事項の可視化②安全管理(施工面)③見えない問題の見える化④空調能力・消費電力の最適化⑤安全管理(建物利用時)⑥クラウド活用による情報共有⑦Digital-Fabrication ⑧鉄工所とのモデル連携⑨ メーカーとのモデル連携⑩ サブコンとのモデル連携⑪ICT施工と建築土工⑫施工図BIM⑬仮囲い・足場計画⑭建て方計画⑮搬入計画
この15項目への挑戦により建設現場で重要とされる品質、原価、工期、安全、環境という「QCDSE」にいい影響を与えることへ証明され、美保テクノスのBIM技術が飛躍的に進歩した。実際、2022年と2023年にアメリカで開催された、オートデスク社主催のグローバル研修会「オートデスク ユニバーシティ」に参加したが、美保テクノスの3Dモデリング、作図技術は世界水準であることを確信したという。
続いて大きな分岐点であったのが国際規格ISO19650「BIMを含む建築及び土木工事に関する情報の統合及びデジタル化-BIMを使用する情報マネジメント」で、BIMを活用した建築プロセスの適正化をこのISO19650に求めた。BIM戦略部全員がISO19650の意図とプロセスを理解し、その後の6ヶ月間の申請期間を経て、地方建設業として初のISO19650を認証に至った。現在は従来の設計フローとISOの仕組みを融合した、独自のBIMワークフローを確立し、設計・施工案件で運用中だ。「着工までに正確な設計情報をとりまとめ、現場と共有し、現場での生産性向上を目標とした。設計手順と必要な情報の明確化、スケジュール管理がきちんと行うことができ、設計業務に従事する若手のスキル向上、早期戦略化につながった」(竹内氏)

ISOを反映させた美保テクノスのBIMワークフロー
建設現場での効果も表れた。設計情報が不完全であることが現場の生産性を低下させる要因になるが、BIM戦略部のスタッフを現場に常駐させ、BIMにより不整合、不正確な点を明確にすることで、BIMによる現場支援を展開した。「複雑なおさまりの点に特に効果が高く3Dモデルによる見える化により職人との相互理解に役立った」(竹内氏)
最後に野津社長は、成果は主に3点に集約されると語った。1つ目は、BIMによる本業の強化。これは、同社の社是は「よい仕事を、早く、安く、安全に」であるが、BIMに適切に取り組むことで工期の短縮、コストの削減、より安全な施工を実現できることを目指し、成果の手ごたえを感じた。2つ目は、BIM周辺事業による収益で、まだ充分には収益化の実現には至っていないがBIM関連事業で収益化が期待できる事業がある。3つ目がBIMのトップランナーとしての強みだ。この効果によりBIM関連人材や技術者の獲得やBIMに関する情報もいち早く入手できる点も見逃せない。美保テクノスは、BIMにより数多く挑戦してきたが、世界でも最先端の仕事が地方ゼネコンでもできることを実証し、広く発信していきたいという言葉で締めた。
【金杉建設】チルトローテータの搭載率を50%へ

国土交通省 江戸川河川事務所では最新の建設技術を活用する取組み「江戸川DXプロジェクト」がスタート。そのタイミングで金杉建設が施工する現場内で最新技術を用いた重機による巨大メッセージを作り上げた。
次は金杉建設の吉川祐介社長が「地域建設業に求められるDX」をテーマに登壇した。この場で金杉社長は、チルトローテータに言及した。バックホウの作業装置(バケット等)をチルト(傾斜)し、ローテート(回転)する事を可能にするアタッチメント。加えて作業装置をワンタッチで付替可能であり多種多様な作業装置を短時間で装着することができる。作業装置の交換により、掴む、掃く、持ち上げる、敷き均す、押し切る等の多種多様な作業が可能になる。
チルトローテータ搭載のバックホウの普及率は北欧では95%に達し、この傾向は日本でも急速に普及すると語った。そこで各種の補助金や税制優遇を有効活用し、他社に先駆けて自社保有建設機械のチルトローテータの搭載率を引き上げることがICT/DXでとるべく戦略であるとし、吉川社長は今後の5年間で保有重機のチルトローテータの搭載率を50%とすることを明言した。最後に地域建設業に求められるDXとして、「人的・物的資源を把握する」「地域の環境を把握する」「顧客のニーズを把握する」「先端技術の動向を把握する」を勘案しつつ、それぞれの会社に応じて最適なDXの投資を行い、生産性の向上を図ることが地域建設業に求められるDXとまとめた。
【中和コンストラクション】少子高齢化での無人化施工の挑戦

「少子高齢化に対応した無人化施工の挑戦!」をテーマに講演する、中和コンストラクションの大浦晃平社長
最後の発表者は、奈良県・桜井市に本社を置く中和コンストラクション。「少子高齢化に対応した無人化施工の挑戦!」と題して大浦晃平社長が語った。
2011年に発生した紀伊半島大水害の災害復旧工事に携わる中で、2度の無人化施工に取り組んだ経験が、同テーマへの挑戦を行った背景である。
地方の中小規模事業者の現場労働力不足の問題は、災害対応時に留まらず、一般土工・インフラメンテナンスなど国土づくりの日常業務の喫緊の課題となっている。この課題を解消するべく、中和コンストラクションは国土交通省のイノベーション創出を促進するための制度(SBIR制度)での「災害に屈しない国土づくり、広域的・戦略的なインフラマネジメントに向けた技術の開発・実証」分野に応募し、採択を受けた(代表会社はORAM)。実施テーマは、「建設施工・災害情報収集における高度化の技術開発と実証」で、その内容は、大規模土工を対象に開発が進む建機施工の遠隔化・自動化・省力化技術を中小規模土工向けの簡易性・汎用性・量産性を向上させ、中小規模土工での建機省人化事業の社会実装を検証する。地域建設業と中小製造業がタッグを組み、無人化施工のイノベーション創出を目指す。具体的な技術開発内容は、メーカーや建機にとらわれずさまざまな重機や作業機械を遠隔で操縦するための後付け装置「RemoDrive®」を開発し、量産化に取り組む。
今後の取組みでは、事業開発プロダクトである「他機種対応後付け遠隔操縦システムRemoDrive®(OPERA対応)」と「他機種通信規格プラットフォーム」を中心に、中小規模の土木工事に向けて最適化した自動化・遠隔化のソリューションを提供し、「建機遠隔操縦事業」を創出し、少子高齢化・人材不足の時代に対応していくことを目指している。

左から、皆川芳嗣・農林中金総合研究所理事長、楠田幹人・国土交通省官房審議官(不動産・建設経済局、現住宅局長)、森下博之・国土交通省大臣官房参事官(イノベーション担当)
森下博之・国土交通省大臣官房参事官(イノベーション担当)、楠田幹人・国土交通省官房審議官(不動産・建設経済局、現住宅局長)、皆川芳嗣・農林中金総合研究所理事長の3名が3社の発表を受けてアドバイスを寄せた。
大石久和氏「挑戦的な取組みに敬意」

総括コメントを寄せた、大石久和・国土学総合研究所長
全体総括のコメントとして、大石久和国土学総合研究所長が「印象を一言で申せば、非常に挑戦的な取組みだ。地方におられる建設会社が新たな技術産業界に持ち込み、より働きがいをもって効率的に仕事ができるよう挑戦されている。皆さんがなぜ頑張っているかと言えば、雇用の場を地方で確保しなければならないとの想いをお持ちだからこそだ。次にインフラを整備することにより人々が暮らしやすい環境をつくる。そこで人々が東京に逃げていかないような環境をつくることについて深く感銘を受けた」と語った。
最後に、斉藤和之・フォーラム実行委員長(北海道)が「デジタル技術の進展に伴い、建設DXの普及が急速に進展する中、限られたリソースを駆使し、必死にi-constructionに取り組んでいる中小建設業界は少なくない。地域のDXが生産性向上や担い手確保、働き方改革などの課題を解決する手段であると考え、全国のトップランナー企業のお集まり、地に足がついた先行事例を発表していただいた。地域建設業はインフラの町医者として、その地域の利便性や快適性、生活の質を高めるという役割を果たし、その地域の安全・安心を守る地域の守り手として、災害などから地域を守る役割がある。生産性の向上は建設業にとって必須事項であり、その歩みを止めてはならない」と語り閉会とした。