建設業従事者の減少とテクノロジーの受け入れ
だが、昨今の建設業従事者の減少や高齢化による大量離職が現実味を帯びてゆく中で、新たなテクノロジーを求める動きが相次いでいる。BIM(ビム。ビルディング インフォメーション モデリングの略)やCIM(シム。コンストラクション インフォメーション モデリングの略)といったコンピューティング技術やAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などのテクノロジー開発が進んでいる。
例えば、建機大手のコマツは、スマートコンストラクションというコンセプトを全社的に掲げている。これは現場全体にITの技術を用いて、安全性と生産性を高める包括的なソリューションである。具体的には、建機オペレーションをコンピュータがアシストするICT建機の導入や、ドローンを使った3Dモデリングなどがある。
測量も変わろうとしている。これまでの三角測量は徐々にレーザーに置き換わり、自動追尾機能を持った測量機が増えているが、それだけではない。360°レーザースキャナーの登場がこれまでの測量の常識を変えてしまった。360°レーザースキャナーとは、別名全方位型レーザースキャナーとも呼ばれる。形状はメーカーによってだいぶ変わるが、遠目から見ると従来の測量機と変わらない。しかしよく見ると、真ん中にレーザー照射機がついており、斜めに設置された鏡がその周りをグルグル回るようになっている。これによってレーザーは全方位360°の周辺の状況を取得する。このようなデータは点群データと呼ばれる。その名の通り、周囲の状況が点で表現されている。データは一見すると写真のようにも見える。しかし点群データには、写真にはない情報が含まれている。それはスキャナから任意の点までの正確な位置関係だ。これにより、ある点からある点までの距離が正確に計測できる。さらに点群を断面で切り出せば、断面図がすぐに作成できる。
このような技術はUAV(無人航空機の略、一般にはドローンと呼ばれる)を活用して、土木現場などの広範囲なデータの取得にも利用されている。UAVにスキャナを搭載して上空から点群データを取得することで周辺の点群データを一気に取得し、GNSSなどと連携して地理情報とマッピングさせることで、正確な位置情報とモデリングが可能になる。
いま紹介した技術は既に実用段階に達しており、導入しようと思えば今すぐ必要機材やソフトウェアを購入できる。そして、これらの技術は熟練の技と違い、習得までに5年も10年もかからない。
テクノロジーは人の創造性を高める
ではテクノロジーはこれまでの熟練の技を破壊してしまうのだろうか。ある部分ではその通りになる。既成概念を破壊し、今までの仕事をなくしてしまうかもしれない。
こういう話をすると「AIがあなたの仕事を奪う」といったような見出しの記事が必ず出てくるが、そうではない。テクノロジーは仕事を奪うのではなく、人がより創造力を発揮できるように働きかけるものだ。もしCADオペレーターが行っている作図が自動化されたなら、人間はデザインというより創造的で高度な仕事に時間を割くことができるようになる。
今後のテクノロジーは、これまで人間が行ってきた単純作業を代替するものが増えてくる。実はこれは今までのトレンドとは逆行する流れだ。これまでのテクノロジーは、人にはできない高度なことをするためのものだった。例えば大量の情報を処理したり、人間にはできない計算をするためのテクノロジーが開発されてきた。だが今後はより人間に対し、フレンドリーなテクノロジーが登場してくる。例えば、重たい荷物を代わりに運んでくれたり、書類を代わりに書いてくれたりするようになる。これは技術的に劣っているように見えるが、コンピュータの世界では、子供でもできるようなことを実行するのが最も難しいのだ。
このようなテクノロジーをうまく取り込められれば、私たちの活動の幅は大きく広がってくる。それはiPhoneが私たちを常にネットに接続できる環境を作り上げたように、あるいはAmazonがどんなものでも安く、翌日に商品が届くようにしたのと同じように、私たちの仕事や生活を根底から変える。問題は私たちが新しいテクノロジーをうまく使いこなせるかどうかだ。
今後の施工管理技術者にとって求められるのは次々と登場してくるテクノロジーを活かし、いかに現場を効率化させられるかというスキルだ。ネット上の大量の情報に淘汰されず、情報を活かすスキルが求められるように、次々現れるテクノロジーから現場の課題を解決するものを選び出し、柔軟な思考でアイデアを形にする頭を持つことである。それは結果的に「現場を変えていく」ことにつながる。そして現場を変えていくことが、健全な建設業の発展に必要であることはいうまでもない。