幼稚園の現場事務所に「深夜の訪問者」
これは、ある幼稚園の耐震改修を受け持った時の出来事です。私は現場事務所に常駐し、連日深夜まで作図作業に追われていました。
今日こそは早く帰ろうという決意も虚しく、その日も時刻は23時を回っておりました。
「そろそろ帰ろうかな。」
先輩のMさんが席を立ちました。
「まだ掛かりそうなの?」
心配してくれたMさんに、私は「あと1時間くらいはかかりそうです。施錠はしますので大丈夫ですよ」と言い、Mさんには先に帰ってもらいました。深夜の現場事務所には私一人になりましたが、忙しさからこの時は全くこの状況を怖いと思いませんでした。
静けさの中、作図作業も順調に進み、日付をまたごうとした頃でした。
ブンッ!
という低い音がして、突然照明が消えました。
「ヒッ!」
私は思わず声を上げましたが、パソコンの電源が落ちていないことに安堵したのを覚えています。状況がつかめず、立つこともできず、様子を見ていると10秒ほどで照明が点灯しました。
「接触不良かな」
わざと声に出して自分を落ち着けて、作図を続けることにしました。
1時を過ぎようとした頃、いい加減帰ろうという気になりながらも作業を終わらせられずにいると、
プルルルル・・・
突然事務所の電話が鳴り始めました。
「会社からかな?」
夜中の1時に電話なんて普通ではあり得ないことですが、本店の深夜残業の仲間からの電話からかと思い、2コール目で出てみることにしました。
「はい、○○建設○○幼稚園現場事務所です」
・・・・ツーツーツー
電話はすぐに切れました。
「なんだよ・・・」
悪態をつき、受話器を置いた瞬間、私は突然この状況の怖さに気がつきました。
深夜の幼稚園。ひとりきりの現場事務所。急に恐ろしくなって、急いで帰り支度を始めました。その時です。
バンバン!バン!!
ものすごい強さで事務所のドアを叩く音が現場事務所に響きました。平手で叩いたような音でした。私は思わず頭を守り、声も出せずにすぐにドアの方向を見ましたが、人影はありませんでした。
現場事務所はプレハブ小屋で、ドアは下半分がアルミ、上半分が硝子の引き違い扉です。人が立っていれば硝子にぼんやり人影が見えるはずなのに・・・。
深夜のただならぬノックの音に、命の危険も感じながら何故か私はしっかり施錠確認と日報をつけていました。事務所内にあったゴルフクラブを持ち、恐る恐る扉を開けましたが、周囲を見回しても人の気配はありませんでした。
鍵をキーボックスに収めた私は、急いで車に乗り込み、現場を後にしたのでした。
誰かのいたずらかもしれない。そんな気持ちもまだあったので、意外とすぐに気持ちは落ち着きました。
翌日、私が疑いの目を向けたのはMさんでしたが、1時間以上前に帰宅したMさんがそんな物好きなことをする訳もなく、結局あの不可解な現状が何だったのかはわかっていません。
「セミでもドアにぶつかったんじゃない?」
Mさんはそう言いましたが、あの音は、そんな軽い音ではありませんでした。もっと強い、何かを伝えたいような・・・。
怖い思いをした私は、それ以来どんなことがあっても深夜まで残業をすることはなくなりました。いたずらの正体が何であれ、あんな怖い思いはもう二度としたくないからです。
骨壺や人骨は経験あります。その度に地元の自治会に相談したり改葬したり大変ですが、そのまま埋めちゃったことはないです。土建屋さんてそのあたりすごい繊細じゃないですか?もし事故があったらみんなソレのせいだと思うし。
建築業そこそこ長いけど幽霊的なものは遭ったことないなぁ。夜中に外国人の窃盗団が現場に侵入してえらい騒ぎになったリアルで怖かった話ならあるけど。