作業員と住民たちで宴会を開催!
私はいい事、悪い事を全て施主に報告した。施主はお金持ちの悪い癖で、すぐ金で解決しようとした。最終的な決断は施主がすべきだが、私は少なくとも直接お金を手渡すことには反対だった。お金を手渡したという話は、人々の間ですぐに広がり、逆効果になる可能性すらある。私は、どうせお金を使うなら現金ではなく、気持ちが伝わる方法を考えるべきだと伝えた。
何も妙案が浮かばないまま学校は夏休みに入った。施主からは常々「何かいいアイデアがあれば話して頂戴」と言われてたので、ある日、施主にいつもの報告をする際、こう切り出してみた。
「何か結果が期待できる訳でもないですが、お盆前に現場の職人たちも含めて、食事会を現場で開こうと思ってるんです。学校も夏休みに入ったし、ここの住民たちをその食事会に招待しませんか?」
施主は「それはいいわ!それなら多少カンパ出来るし!」と言うので、 どこの現場にも必ずいるような宴会係に協力を頼んだ。施主からは30万円が資金として提供された。開催日は土曜日の午後3時からと決め、案内状を配った。金額は伝えなかったが、多額の援助が施主からあったと報告し、宴会が始まった。
現場の作業員に慣れていない大人たちは、何か遠慮気味だったが、子供たちのために考えた作業員と対決するゲームコーナーは好評だった。作業員の中にはまだ十代の若い連中もいたので、格好の遊び相手になったようだ。中にはテキヤの仕事をしていた作業員もいて、たこ焼き、カキ氷、焼肉は大好評。予定の2時間はアッと言う間に過ぎた。家から出られない病人の居る家にも、それらの料理を運んだ。
これぐらいのことで、住人の気持ちがどうにかなるなんて これっぽちも考えなかった。ただただ、作業員たちの慰労と同時に、住人たちに楽しんでもらえればいい。施主にも下手な期待は禁物だと言っておいた。実際、宴会後に何かが飛躍的に変わったわけではない。ただ朝の挨拶で、徐々に大人も子供も多くの住民が挨拶を返してくれるようになった。これは嬉しかった。