工事開始後の具体的な対策
工事開始後の現場でも、住民と近隣住民の感情を逆撫でしないための対策が必要となってくる。
まず私は、現場に出入りする職人を含めた全員に、「朝、誰かに会ったら大きな声で“おはようございます!”と挨拶する事」を徹底させた。また、工事関係者である事が一目で分かるよう、ヘルメットにステッカーを貼り、胸に氏名を書いたバッジをつけ、住民からも名前が分かるようにした。住民たちの名前を覚えることも心掛けた。名前で呼ばれると、人は心を開きやすくなる。
ダンプや生コン車の出入りの際は、ガードマンを通常の倍となる人数を配置し、歩行者優先を徹底した。ガードマンが足りない時は、私を含め工事関係者全員で歩行者保護に専念。通学路のための安全通路には屋根をつけ、一本先の横断歩道にまでガードマンを配置した。さらに、朝礼後に毎朝15分間、マンションの周囲だけでなく、近隣の歩道や道路まで清掃を行い、ゴミ集積所の掃除もやった。
私の会社からは「何もそこまでやらなくてもいいだろう!」と散々言われたが、色々な評判や施主からの言葉がそれを黙らせた。
改修工事のハツリ工事で騒音が問題に!
しかし、改修工事ならではの問題も噴出した。解体してみないと、どうなってるか分からないのだ。図面は全て現場合わせ寸法となり、変更変更の連続で工期が大幅に遅れた。そうした工事の報告や相談を施主にするのは、どうしても現場が落ち着いた6時頃となってしまうが、実はこうした報告の小さな積み重ねが、ボディブローのように後々効いてくる。
私は耐震補強の際の外壁のカッター入れ、ハツリ、アンカー削孔の騒音が半端じゃないことを施主に説明すると同時に、外壁タイルの張替えに関しては、浮きの調査を行い、裏面にエポキシ樹脂注入とピン固定を提案した。タイルの提案は施主に受け入れられたが、騒音に関しては妙案がなく、どうしようか?と工期とにらめっこになった。
足場からコンパネを外壁に密着させ、ガラを決して下に落とさず、少量づつ袋の入れてロープで下に降ろすまでは考えたのだが、騒音に関しては無振動のチッパー使っても大して効果がないのは分かっていた。結局、騒音についてはどうにもならず、住民に正直に話すことにした。並みの騒音では無い事、はつり取ったガラは下に落とさず、袋に入れて降ろす事、その後の耐震補強のためのアンカー設置も同様にドリルの音が大きい事、などを説明した後で、いつどんな時期にやるのが一番迷惑を最小限に出来るか考えたが、決定的な案が未だ浮かばないと素直に話した。
例えば、お盆で帰省する家族が多い日に集中して工事する。あるいはアンケートを実施して多数決で工事日を決める。または時間と場所を限定して工事を行うなどを提案したが、どれも大した案ではない。しかもマンションの住民だけでなく、近隣住人にも配慮しないとならない。住人からも特に意見はなく「本当に耐震工事をやらなければ駄目なのか?」という質問があったぐらいだった。
従来の計画では、コンクリートのブレースを柱梁間の外側に掛けて、構造を補強する予定だったが、それを鉄骨かプレキャストで出来ないかとも私は考えた。同じ補強効果で多少は騒音を軽減出来るのではないかと考えたわけだ。しかし、このアイディアは計画の変更に伴う新たな申請が必要になり、会社の同意も得られなかった。