「交通をもっと良くしたい」ナビタイムを退職し、独立起業へ
――そして独立して起業されたわけですが。
太田 私は今「トラフィックブレイン」という会社を2017年6月に立ち上げたばかりで、交通のデータ分析とか、そういった仕事をしています。ナビタイムを辞めたのが去年の1月でした。ちょっと自由に働き過ぎたというか、働き方が社会人としては外れすぎていたみたいです。好きな時に来て帰るって状態だったので、自分としてはいいんじゃないって思っていたんですけど、会社側は色々あったようで。
――前職で、仕事で行き詰ったりは?
太田 仕事は順調でした。でも、音楽性の違いっていうんですかね、アプリを作る会社と、交通をよくしたい自分が折り合わないところがあって。交通をよくしたいとなれば多くの人に使ってもらいたいんですけど、有料課金ビジネスだとそうもいかないところがあります。
データを分析したいと思うと、30代でも1,000万円くらい払って優秀な人を呼んでこなきゃいけないんですけど、そういう給与水準でもありませんでした。頭とデータをゴリゴリ使って、世の中に新しいものを提案するってのが、それなりの規模の会社、350人くらいですけど、結構難しかったというのがありました。
――もともと独立を考えていましたか?
太田 キャリアプランは明確に定めていなかったんですけど、3年くらいやったら飽きちゃうんですよ。真面目にやったら普通3年目には飽き飽きしちゃいますよ。部署異動とかもそんな感じですよね。ビックデータを3年、情報提供を3年くらいやったので、交通コンサルも間にはさみましたけど。もういいかなと。
――例えば、交通と頭を使って新しいことをやるなら、国交省って選択もあると思うんですが。
太田 学生の時から、公務員になるって選択は全くなかったです。実際にコンサルティングをやってみて、改めてそれを感じましたね。公務員は誰もいきいきと仕事をしていないし、権威主義的のど真ん中、狭い世界って感じで。
土木学会の行事も面白くない。基本的に、土木の人ってプレゼン能力が低すぎるんですよ。このネタをあえて2017年の今やるのっていう話で。そんな守りに入った結論は求めてないですよ、と思って質問してみると「それは私の口からは言えません」「それは発注者さんの方から…」って。何しに土木学会に来てんのって話ですよね。言えないなら学会なんか来るなよって。
――でも、その権威主義な人達が変わらないと、面白い交通が提案できないですよね。
太田 そうなんですよ。コンサルティングって、行政側に提案するのが仕事ってイメージですよね。事業者や行政がやる気になってくれないと、「いい話を聞いたな~」で終わってしまう。それを5年位やりまして、もううんざりしちゃって。何でこの人達はやればいいってわかっているのにやらないのって。なので、メディアから騒がせていこうと。データをオープンにして、記事をたくさん書いたりして、サービスを作って、普通の人達の方から「こうすればいいのに何でそうしてくれないの!」って行政側に言わせようと。
――なるほど。データといえば、ナビタイムさんのHPに、太田さんの発表資料が載っていますよね?
太田 それは私が発表したので掲載してもらったんです。せっかく発表するならwebでもってことで社内を調整しまして。
――土木では珍しいですね。でもいい宣伝になりますよね。
太田 そうなんですよ。もう呼び水なんですよね。ナビタイム時代も土木計画学研究発表会に一度に3本論文を出したんですよ。これはプロモーションの場だし、やっている案件全部発表しようと。
――確かに市民からアクションがあると、土木も逆に動きやすくなるかもしれないですね。こちらから工事させてくださいってお願いする流れじゃなくなるってことですもんね。
太田 「この工事をしてほしい」と言わせるのは、ナビタイムにいる頃から始めています。2年くらい前から混雑情報を作って、東急に提供しているんです。首都圏のほぼ全路線の、終日の駅間の情報が拾えます。もっとこういう情報を出していくべきです。例えば、不動産会社のHPに載せたりすると面白いと思うんですよ。そういった人の意思決定の瞬間に、ネガティブ情報も含めて提供できればいいと。同じ時間がかかるなら空いてから乗るか、なんて選択ができるようになる。というので行政やインフラ側を焦らせる。中央線、埼京線沿線に住む人は減っちゃうかもしれませんね。
行政を動かすための「警察の通信簿」を作る
――鉄道以外への展開もありますか?
太田 面白かったのは、右折時間の所要時間を全国で集計したデータです。ずっと右折できない交差点ってありますよね。住民の人は、何待ちなのかって肌感覚でわかってるじゃないですか。それで、ここの右折3秒伸ばしてくれればなって思っているような。
これっていわゆる都道府県の警察の通信簿ですよね。沖縄が一番酷くて。次が熊本ですね。この結果は沖縄の案件をまとめるのにとても役に立ちました。今、こういうデータって管理側しか持っていないんですよね。だから外から判断できない。
――最近はオープンデータも増えていると思いますが。
太田 まだまだだと思いますね。税金で取ったデータは全部開示してもいいんじゃないかと。識者のフィルタを通さなくても、生のデータがあれば人は判断できると思っています。もっとフラットな議論をしていきたいですね。世の中をよくする材料ですから。
生のデータを使って判断する経路が、まだまだ社会的に訓練されていないと思いますね。今もマスメディアからの一方通行からは良くなっているとは思いますけど、土木業界はまだまだですよね。例えば、ホテルとか観光地の星いくつなんてよくやられていますけど、今までは行ってみないとわからなかった。それと同じで情報の非対称性が大きかったんですね。
――労力に対して儲からない気がします。今まで公共だから出来ていたことでは?
太田 そうでもないですよ。うちの会社にも仕事がどんどん来てます。そして同じデータを使って、事業者側とメディア側の両方のアプローチが出来ます。今メディアで大きな利益は出ていないですけど、これからだと思いますね。最終的に、事業者側とメディア側が融合すると思っているんです。
行政側でも、市民側でも結局同じことが出来ますよ。先日のバスマップサミットで公共交通とオープンデータについてお話する機会をいただきました。山梨ではバスのデータが公開されているのですが、バスが使いにくいのでどうしたらいいかと。バスって今、全然存在感がないんです。でも本当は便利なんだから何とかできないかと。
で、公開されているデータをもとに、ふた晩ぐらいかけて、バスの本数とバス停の位置を図でわかるようにしたんです。1時間に何本ってのがわかるように。その結果、幹線沿いならバスを主要な交通手段にしてもいいかなと思えるようなデータができました。次に、出発地と目的地のバス停を選択すると、該当するバス停を選択してオーダーメイドな時刻表が出来るようにしたんです。
――バスを選んでもらう決め手を作ったということですね。他の都市でも可能ですか。
太田 データ形式が同じなら、どこでも出来ます。でもまだまだデータがクローズドなんですね。今はデータを作っているジョルダン流、グーグル流以外の使い方が出来ない。局所解にはまっているんですね。でももうデータを囲い込んでいる時代じゃないでしょうよって。それがナビタイムを辞めた理由でもあるんですけど。