2児を出産後、半年で職場に復帰。自宅で卒論指導
――大学の研究者のワークライフバランスは?
鍬田 子どもができてからは、大学にいる時間も研究に携わる時間も減りました。今2人の子どもがいるのですが、それぞれの出産後、半年で職場に復帰しています。
――半年で戻るルール?
鍬田 ルールではないんですが、大学を1年間休むと、その間の授業を誰かにお願いしなければなりませんが、なかなか適当な人を探すのが難しいです。非常勤講師の方を探して、1年間だけその人にお願いするよりは、半年休んで、開講時期を出産前か後の学期に移動させれば、学生には不利にはならないです。
また、これまで就職してから出産するまで、一度も主婦という生活をしたことがなかったわけです。家事には終わりがないといわれますが、中々、家の中で子供と一日過ごしながら、家のことをするのは大変でした。半年で戻ったのは、授業のこともありますが、後者の理由もあります。
――出産前は?
鍬田 出産1ヶ月前まで授業をしていました。お腹が大きい状態で(笑)。大学のルールでは、出産の1ヶ月半前から産休を取れるのですが、卒論の発表会などがあったので、出産の1ヶ月前まで働いていました。出産時期が3月末と9月末で、ちょうど前期後期のタイミングと重なったので、良かったんですけどね。授業もそうですが、研究室の学生指導もあります。産休中、育休中は、学生を家の近くの喫茶店や自宅に呼んで、卒論、修論などの指導していました。学生も苦労したと思いますね(笑)。
――出産後は?
鍬田 今、上の子が3才半、下の子が1才2ヶ月です。子どもができてからは、子どもの送り迎えの時間があるので、研究室にいる時間は限られてしまいます。
――地震の現地調査などの活動は?
鍬田 熊本の地震のときは、お腹が大きかったので、すぐには現地に行けなかったです。東京での会議の出張などもだいぶ絞りました。出張する場合には、極力宿泊のないように先方にスケジュールを調整してもらったりしました。
ただ、それは長い研究生活から考えれば、ほんの少しの期間のことであって、まったく悲観していません。研究者という仕事は、民間企業などに比べて、時間の調整はしやすいので、その点は助かっています。また、近くに母がいるので、子どもを預けて世話してもらったりもできたことも、幸いでした。
――産休を取るに際し、大学の同僚女性からアドバイスを受けたりとかは?
鍬田 この学科で産休を取ったのは私だけですが、建築学科には産休を取った先生がいたので、授業の振替や保育所探しの保活についても、色々聞きました。
――論文数なども減った?
鍬田 以前に比べれば、論文数は減りました。出産前は現地調査などをベースにした研究もありましたが、フィールド活動の時間はなかなか取れないです。研究室での実験など、時間的に支障のない研究テーマが増えました。
土木工学は研究成果を社会に還元しやすい
――目指す研究者像は?
鍬田 大学の研究と実務とは違います。ただ、土木工学という学問分野は、社会や現場と非常に接点が大きい学問領域であって、研究成果を社会に還元しやすい分野だと思います。
そもそも、社会に還元すること。それこそ、サイエンスではなく、工学の目的だと考えています。自分たちの研究は「社会に還元できる」「役に立つ」学問であり、それに「やりがい」を感じます。大学の研究は基礎研究が多いですが、自分たちの研究成果が、国の指針や基準に採用されるなど、目に見える形で社会に還元されるのは、研究者としての大きな喜びです。
――研究者になって良かったと思ったエピソードは?
鍬田 「研究者になりたい」と思ったきっかけは、調査で被災地を歩いていたときに、「被害の軽減につながることをしたい」と思ったことです。その思いは、今も変わっていませんが、これまでの研究者生活の中で、「本当にそれができたか」については、今はまだ言えません。自分が目標としているところに対して、大きな達成感を得られたかというと、そこにはまだまだ遠いです。
――今後の目標は?
鍬田 当面の目標は、色々な研究を進めて、研究成果を色々な指針や基準に反映されるようになることです。日本の建設業界は、基準等に明記されれば、それに準拠して設計・施工が進みます。逆に、それらに明記されないと研究を積み重ねても、その成果が社会で使ってもらえないということを最近ヒシヒシと感じています。自分たちの研究を「研究室レベル」で終わらさず、世の中に還元するにはどうするか、ということを踏まえて、今後研究を続けていきたいと思っています。
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