すでに民需に陰り。中小建設企業は変革の時
――まず話題になった小池都政の「入札制度改革」について思うことは?
都中建 私たち東京都中小建設業協会(都中建)は、中小建設企業の団体なので、東京都入札監視委員会や小池都知事とのヒアリングでは厳しい意見を申し上げました。しかし、誤解しないでいただきたいのは、東京都が試行している「入札制度改革」に対して、すべてが「ノー」という立場ではないという点です。旧態依然とした建設業界の体制を改革する必要性は、都中建の一員としても、いち建設会社の社長としても、ひしひしと感じています。変えるべきところは変えていかないと、建設業と都民との乖離が広がってしまいます。
――これから、中小建設企業も変わらざるを得ない?
都中建 はい。われわれも変わらないと、建設業は厳しい局面に立たされます。現場でもAIやICTをはじめ、新技術による省人化が進んでいます。
たとえば、大手ゼネコンや準大手ゼネコンの工事現場では、現場打ちのコンクリートに代わって、(工場で製作する)プレキャストコンクリート工法が増えてきています。新国立競技場の工事現場でも当初、都内の型枠工事業者たちは、現場打ちのコンクリートの需要を見込んで、数百人規模の型枠職人が必要になると想定していましたが、設計変更によってプレキャストコンクリート工法となってしまいました。型枠工事業者はアテが外れてしまった形です。従来のようなゼネコンと型枠工事業者の商取引は、今後成立しずらくなる可能性が高いです。
その一方で、技術者や技能者の人材確保も、喫緊の課題になっています。人手不足は中小建設企業にとっては、事業継承にも直結する大きな問題です。後継者にふさわしい身内がいなければ、自社の技術を必要とする会社と一緒になるという決断もあり得る時代に突入したと考えています。
実際、中小建設企業の経営者たちからは、企業合併、M&Aなどの話題がよく出ます。中小建設企業では事業承継問題が深刻で、私自身も知り合いから「これからは優秀な後継者がいなければM&Aも生きる道だよ」と指摘されたことがあります。今後、中小建設企業の経営者を務めるのは、ますます難しくなっていくでしょう。
――大手ゼネコン幹部は「建設需要は2020年以降も続く」と言っていますが、渡邊副会長の実感はどうでしょう?
都中建 民需は一昨年あたりから陰りが出ています。以前盛んだった投資向けワンルームマンション工事は今年になって相当落ち込んでいます。それが実感です。やはり一番の理由は人口減少で、新規の建設ニーズが生まれていません。これが頭打ちの一番の理由です。
――でも、マンションの維持管理は増えるのでは?
都中建 すでに5年前から、新築ではなく「ストックの時代」に突入したというのが私の持論です。都中建の会員企業にも、マンション維持管理に注力している企業もあり、その需要も増加しています。ただ、建設会社としてマンション維持管理の利益だけを追い求めてしまうと、新築工事に対応できなくなるため、難しい経営判断が求められます。