「命を守る」ことが、土木技術者の最大のミッション
――コンサル以外にもいろいろ活動されてますよね。
松永 会社を辞める前、辞めて何をやるかを決めていました。まずは、産官学でインフラのメンテナンスのあり方について議論する場をつくりたかった。実際に、阪神大震災以来の仲間たちとともに「(一社)リペア会」を立ち上げました。
さらに、一般の人に向けて、土木の本当の価値、災害のメカニズムなどをちゃんと伝えたいということで、「(一社)ツタワルドボク」も立ち上げました。
そして、未来の土木の担い手がいなければ、安心安全は守れないので、子どもたちとその保護者といっしょに本物の工事現場や工場で体験イベントを行う「噂の土木応援チーム デミーとマツ」を結成しました。
子どもを対象とすることでテレビなどのメディア露出も狙っていますが、現在22回のイベントを行い、上手くいっていると思います。
私は、土木技術者として慈善活動がしたいわけではない。命を守りたいんです。自然には勝つことはできませんが、負けるわけにはいかない。なぜなら、「命を守る」ことは、土木技術者の最大のミッションだからです。
ウソをつく技術者は、技術者として認めない
――「土木は優しさをカタチにする仕事」とおっしゃっていましたね。
松永 そう、「優しさ」と「命を守る」はつながっているわけです。ただ、「徹底的に優しくなろう」と思うと、「力」が必要なんです。力のない優しさなんて、同情に過ぎません。
力は、政治力でも経済力でも、力であれば種類はなんでも良いと思いますが、私は「技術力」という力で、自分が思う優しさをカタチにすることにしています。上下水道の整備により伝染病を駆逐し、道路の改良により交通事故死も飛躍的に削減することに成功しました。停電や水不足も昔ほどはなくなりました。残念なことに、災害死については、まだまだだと考えています。
今は、仕事とボランティアを切り分けて活動しています。中小企業につとめておりますので会社に迷惑をかけられないからです。しかし、割り切ることで、積極的に行い、充実感も味わっています。当然ですが、会社の業務に支障が出ない範囲でやっています(笑)。
――収入は相当下がったんでしょう?
松永 はい、転職した直後は相当下がりましたね(笑)。しかし、若い人に土木の世界に入ってもらうためには、「土木が楽しい仕事であるということを伝える人間」、「楽しそうに仕事をする人間」がいないとダメだと思っています。たとえ、本人は儲かっていなくても(笑)。自己犠牲の精神なのかもしれませんね。
だから、私は、SNSになどにアップする写真は、基本的に「笑顔」の写真だけです。「土木の楽しさ」を伝えるのは、やはり笑顔が必要ですよ。

ジンバブエ共和国での人材育成プログラムに参加したマツさん / マツさん提供
――良い土木技術者の条件とは?
松永 「志を持って、使命感を持って、ウソをつかず、優しさを忘れない」ことでしょうかね。
――ウソをつかない?
松永 確かに、すべてをオープンにすることはできない仕事ですが、発注者や住民の方から訊かれたことにウソはつかないということは、科学技術を用いて仕事をする技術者にとって大事なことです。
ウソをつかないことの根本には、やはり優しさがあると考えています。ウソはいずれバレます。きれい事をいうようですが、私は、ウソをつく技術者を技術者とは認めたくはありません。
こういう人は業界内だけじゃなくて世間一般にも広まってほしい