鉄道から空港まで。InfraDoctorはどんなインフラも点検できる
さらに、InfraDoctorを他のインフラ点検にも広げようという取り組みが始まっている。
「もともとは首都高を点検する技術として開発したシステム、他のインフラを点検することは考えていなかった。使ってもらうとしても、同じ道路会社ぐらいして想定していなかった」と振り返る。
ところが、他の事業者も、マンパワーなどが不足し、インフラの点検修繕には苦労している実情を知る。「他の事業者にとってメリットになるなら」ということで、本格的に支援サービスに乗り出したという経緯がある。
他事業者のインフラ点検の代表例が、伊豆急行株式会社の伊豆急行線だ。首都高グループと東急グループの共同開発という位置づけで、InfraDoctorによる鉄道保守管理に乗り出した。
鉄道のインフラ点検は、終電から始発までの限られた時間のうちに、暗闇の中作業しなければならない。鉄道会社によっては、20年に1回の点検作業に3年を要することもある。
2018年9月、台車にMMS車両を載せ、全長45.7kmを3日間かけて走らせ、データを収集した。3次元レーザースキャナーを使えば、トンネル内の漏水の状況なども鮮明なデータがとれた。伊豆急行は現在、InfraDoctorを用いて、同線のメンテナンスを実施している。
阿蘇くまもと空港や富士山静岡空港でも、InfraDoctorはすでに稼働している。空港には滑走路(アスファルト)や駐機場(コンクリート)があるが、道路と同様に定期的なメンテナンスが必要だ。
やはり、空港によっては、点検作業は飛行機が飛ばない夜間に限定される上、点検する人員に限りがあるため、1回の点検に数ヶ月を要することもある。
InfraDoctorで富士山静岡空港の滑走路を点検したところ、わずか3時間で完了。永田部長によれば、空港関係者は目を丸くして驚き、「こんな素晴らしい技術なら、もっと早く頼めば良かった」と言ったそうだ。
InfraDoctorは、建築構造物などの点検も可能だ。例えば、重要文化財クラスの古い建造物の点群データをとると、柱の本数やそれぞれの太さ、瓦の枚数などの正確なデータがとれるので、材料表を作成できる。
仮に、建造物が地震などで倒壊した場合でも、点群データをもとにすれば、正確で早期の復旧も可能になる。具体的には言えないが、すでに数件の依頼が入っていると言う。
インフラ点検は今のうちから準備を
「今は、InfraDoctorを使えば、どんな構造物でも点検できると考えるようになっている」--。永田部長はそう豪語する。インフラ点検に悩む規模の小さな自治体の支援にも前向きだ。
例えば、日本には約73万橋があるが、このうちの約40万橋は図面がないが、これらの橋の点群データをとれば、データをもとに図面を起こすことができる。「規模の小さな橋梁を管理している自治体にとっても、点群を保有することでトータルコストを見れば、大きなメリットをもたらす」と言う。
「あと5年も経てば、バブル世代に入社したベテランが一斉に退職し、インフラ点検の人材も減る。今のうちからこういう点検技術をつくり上げておかないと、ベテランの方々のノウハウも一気に消えてしまう。インフラ事業者の方々には、とにかく今からその準備をしていくべきだと思う」と話す。