電車の運行に絶対影響を与えない
――工事の進捗はどうなっていますか?
松下さん 85%ほどです。
――他の工区と比べると、かなり早い方ではないですか?
松下さん そうですね。ただ、「早く工事を進めたい」のが本音ですが、早くやろうとすると、安全や品質を担保できないというリスクを伴います。具体的には「電車の運行に支障を生じさせない」「周辺住民な第三者に迷惑をかけない」ということを常に優先的に考えながら、最も早いやり方を選ぶようにしています。
われわれの工区は、できるところから作業に着手することで、施工スピードを確保してきました。

作業ヤードのすぐ横の仮線を電車が走っている。
――施工管理する上で気をつけていることはありますか。
松下さん これだけ巨大な構造物をつくる上では、まず施工上の安全を担保しなければなりません。巨大な構造物をつくるためには、巨大な機械を入れる必要がありますが、作業ヤードの周りには住宅地が密集しています。大きな機械は振動や騒音も大きいので、それらを防ぐ技術も必要になります。
とくに基礎杭工事の場合は、振動に配慮する必要があります。ただ、いくら対策を講じても、音や振動はゼロにはなりません。なにより、近隣の住民の方々のご理解を得ながら、工事を進めていく必要があります。
高架橋が高いことによって、風の影響によるリスクも高まります。リスクを回避するには、強固な足場を完璧につくっていかなければなりません。電車の運行に影響を絶対与えないことはもちろん、周辺の歩行者や住宅などにも影響を与えないための安全対策には、非常に苦心しているところです。
――防音シートも張り巡らされていますね。
松下さん 高架橋の工事の際は、やはり騒音には気を使いますね。ただ、しっかり防音シートを張ると、風の影響をモロに受けてしまいます。
住民理解を得る秘訣は「毎日会いに行く」
――近隣住民への配慮のためにどのようなことをしていますか?
松下さん 工程表などを目立つ場所に掲示しています。毎月一回、阪急電鉄さんと一緒に、周辺の町会長さん、商店街会長さんのところに工事の説明のため訪問しています。夜間作業の場合は、近隣の住宅一軒一軒、説明に回っています。どんなに施工上の配慮しても、どうしても音が出てしまうので、とにかく工事へのご理解を得るよう努めています。
――12年間同じ現場にいると、住民の方々と顔なじみになっているのでは?
松下さん そうですね。歩いていると、住民の方から声をかけられます。「まだいるの?」「はよ若い人に譲って、出ていかな」とか(笑)。
――クレームとかは?
松下さん 「夜間作業の音がうるさい」という苦情はいただいたこともあります。住宅街なので、普段夜間はシーンと静まり返っている場所で、工事を行うわけなので、もっともなご意見だと思います。われわれとしても、大変ご迷惑をおかけしていると認識しています。それにも関わらず、多くの住民の方々には工事にご理解をいただいており、感謝しています。
――住民の怒りを収める秘訣はありますか?
松下さん とにかく毎日会いに行くことです(笑)。対策を取ることはもちろんですが、誠意を示すことが大事です。「昨夜はうるさかったですか?」「昨夜は新しい防音対策したのですが、どうでしたか?」とか。よく怒られましたが(笑)。そのおかげもあって、多くの住民お方々にご理解いただいています。最近では、「早く高架にしてね」など、励ましのお言葉をいただくことが多いです。
――音の出る作業は昼間にするとか?
松下さん 確かに、そういう選択をする場合はありますが、住民の方々にとって、電車が通る音と、工事の音は違うようです。電車の通貨騒音は生活音として慣れていますが、工事音は異質に感じられるようです。昼間の作業であっても、なるべく音が出ないよう気を使うようにしています。
苦情が多い時こそ住民目線で頻繁にご自宅に顔を出す、これ以上の対策は有りません。目先の利益・工期に囚われる事なく、長い目で対策を行い、安全第一で竣工迄頑張って下さい。