「型にハマった提案だけする」のが日本のコンサル
――普通はそこまでしないでしょう?
政門さん そうですね。他の建設コンサルタント会社を見渡すと、「既存の技術の中でNo.1の技術はこれです」と提案することが一般的で、NEKのように新たに技術をつくる会社はほとんどないと思います。
――「儲け」のためにコンサルが手抜きをするという話は聞きます。
政門さん 現場を見ないで提案するコンサルタントは確かにいます。むしろ、日本のコンサルタントは「型にハマった提案だけをする」のが標準です。お金が絡むとなかなか難しいのでしょう。私の部署では、お金をあまり気にしません。ちゃんと提案して、やることをやっていれば、儲けはあとからついてくるモノだと考えています。
一般的な発注者は、私の部署のように新しい提案をするコンサルタントをイヤがる傾向があるかもしれません。新しい技術をもってこられると、その技術の信頼性に責任を持てないからではないでしょうか。
この点、首都高は逆に「どんどんチャレンジしろ」と言っていただけるんです。ある程度の検証をして良いモノだったら、まずは首都高で使ってみよう。1年後に検証してみて、ダメだったら違う方法で治せば良いという感じなんです。
他のコンサルタントは知りませんが、首都高は、われわれにとっては非常に仕事のやりがいがあるお客さんであり、真剣に技術に集中できる環境を与えてくれます。
もちろん、NEKが提案して失敗したことはあります。ただし、早く失敗すれば技術改善など次の対策も早く打てるので、結果的に良い仕事ができています。
カーボン当て板補強技術を開発
――NEKでは技術開発も行っているそうですね。
政門さん NEKは3年前に今のオフィスに移転しました。以前のオフィスだと社員の増員が大変だったので、増員のためにオフィスを移転したようなところがあります。移転の際、技術開発のための実験室もつくりました。大規模な実験は大学などの研究施設をお借りして行いますが、コンパクトな実験はすべてココで行っています。
――例えば、どのような技術を開発中ですか?
政門さん 「CFRP(carbon fiber reinforced plastic、炭素繊維強化プラスチック)」を用いた当て板補強があります。従来の当て板補強は、メタルの板を貼り、ボルトで止めるのが一般的ですが、メタルの板は15kgほどと重いし、孔を開けるのも大変です。われわれが開発しているのは、1kg程度と軽いCFRPを接着剤で貼って補強するという技術です。これはまだ誰もやっていない技術で、実現すれば、作業効率は格段に向上します。
「カーボンが鉄に、接着剤がボルトに勝てるのか」という課題がありましたが、複数の実験を重ね、現在では、「補強効果あり」と実験結果が出ています。首都高のいくつかの箇所では、すでにCFRP接着補強工事を実施しています。
――技術開発を始めた経緯を教えて下さい。
政門さん 今のオフィスに移転した際、構造技術部内に技術開発のセクションを設けました。現在15件ほどの研究開発、新技術検証、既往技術との比較などを行っています。画期的な技術を開発すというよりは、インフラの老朽化と予算不足、技術者不足のニーズに沿った技術の開発を行っているということです。私が仕事を受けて、大勢の部員が実験を行っています。メンテナンスの技術者にとって、最高の部署ではないでしょうか。
「首都高の構造物が損傷した」という一報がわれわれのところに入ります。現場に行って、首都高関係者の方々と合流し、ディスカッションをします。そこで方向性を決めて、報告書をまとめます。工事途中、工事完了後もわれわれが見て次に活かす。
そういうことを繰り返しているうちに、われわれに技術が蓄積し、首都高関係者からも評価されるようになりました。「こういうやり方が良いね」という話になったんです。当初、補修設計は10〜20件でしたが、3年後には300〜500件の補修設計を実施するまでになりました。
この経験を踏まえ、私は、現場をしっかり見て後々まで見越した提案ができるのが良い土木技術者だと考えています。部下には「必ず現場を見ろ」と言っています。
現場に行かず、写真だけ見ても、わからないことが数多くあります。「損傷の原因は?」「劣化進行の可能性は?」「隣接箇所の状況は?」「第3者への被害は?」--などなど、写真ではわかりません。
これを現場で特定し、ベストな補修補強提案をすることが本当の技術者だと考えています。一般的には現場を見ないことが多く、見ても遠くから状況を確認するだけです。NEKの場合は、損傷箇所を自分の手で触って確認しています。これが他の建設コンサルタントにはないNEKの強みだと考えています。マニュアル通りの提案なら誰でもできると思いますが、現場が求める最高の提案は、どこにも負けない自負があります。
2006年に4名でNEKに移ったときは、正直不安でした。何事も計画的に進めることで育ってきたので、見えない未来でしたが10カ年の中期計画を自分でつくりました。売上、人数、事業規模とその範囲などは、計画通りに達成することができました。4名で新たに立ち上げた事業でしたが、一応うまくいったと考えています。
本物のコンサルタントとは何かを教えてもらっているように思う。