年間 数百億円の投資は、国家予算で見れば「ppm」レベル
――四国新幹線など、基本計画があるが止まったままで、なかなか事業着手できない新幹線が残っています。
波床正敏 今のペースで基本計画のある新幹線をすべて整備すると、100年かかります。日本の多くの交通インフラは、おおむね30年で整備されてきましたが、100年はかかり過ぎです。今後30年をメドにすべての新幹線を整備するのが妥当だと思います。
四国新幹線の事業費は、1~2兆円と言われています。決して小さな額ではありませんが、10~20年かけて実施するインフラ投資額として、それほど大きい額ではありません。
メディアの印象操作により、「新幹線はべらぼうにカネがかかる」という世論が形成されていますが、百兆円規模の国家予算全体から見れば、年間 数百億円程度の国費支出などは、単位的には「ppm(百万分率)」レベルなんです。たいした額ではありません。
新幹線整備が進まない背景には、車社会になって、鉄道整備になかなか目がいかない状況がありました。整備新幹線5線がなかなか進まない中、四国新幹線などの基本計画新幹線の早期整備を言い出しにくい状況が続きました。北陸新幹線の新大阪駅までのルートのメドがついて、やっと基本計画線の要望活動が始まったようなところがあります。
現行の整備新幹線スキームでは、域内の線路の長さに応じて、地元自治体が費用を負担することになっていますが、東海道新幹線の建設時には、沿線自治体の負担はありませんでした。そもそも地元負担させる必要があるのか疑問があるが、誰も議論しようとしません。
九州新幹線(西九州ルート)では、沿線の佐賀県が「新幹線は必要がない」と主張し、新幹線建設は実質的にストップしています。佐賀県の主張は、負担がメリットと釣り合っていないという点で、その通りだと思います。
ただ、沿線自治体だとしても、「新幹線整備を阻止する権利がある」とは考えにくい。落とし所としては「費用負担なしで、ただし駅ナシ」ということが考えられますね。
――リニア中央新幹線をどう見ていますか?
波床正敏 リニア開業によって、スーパー・メガリージョンが形成されると言われています。その成否はリニア駅までのアクセス次第だと考えています。品川~名古屋の乗車時間が40分なのに、リニア駅まで40分以上かかってしまう場合、空港まで行って飛行機に乗るのと時間的には大差がありません。
航空機の乗車時間は羽田~伊丹を1時間程度で結びますが、スーパー・メガリージョンは実現していません。なぜなら、それぞれの空港が都心部から遠く、乗車時間に対してそれ以外の時間のロスが大きいからです。
リニア駅へのアクセスが改善されない以上、リニアによる恩恵はリニア駅周辺に限られ、スーパーメガリージョンの形成は覚束ないでしょう。