大きな転換期を迎える河川整備計画
――これからの東北地方整備局の河川整備方針についてお聞かせください。
栗原 2020年度から「流域治水」の取組みが本格的に始まりましたが、その中で、各河川における必要なハード対策を確実に進めていくことが、私たち東北地方整備局の最大の責務です。2020年12月に決定された「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」のもと、まずは、現在の河川整備計画に基づき、必要な河川整備を着実に進捗させていきます。
並行して、将来の気候変動の影響を考慮した、新たな治水計画を検討し、見直していく必要があります。これまでの治水計画は、過去の実績の降雨、潮位などに基づいて作成してきましたが、気候変動の影響による降雨量の増大、海面水位の上昇などを考慮すると、現在の計画の整備完了時点では、実質的な安全度が確保できないおそれがあり、今後は、気候変動による降雨量の増加、潮位の上昇などを考慮したものに計画を見直す必要があります。
国土交通省水管理・国土保全局では、「気候変動を踏まえた治水計画の前提となる外力の設定手法」、「気候変動を踏まえた治水計画に見直す手法」等について検討を行う「気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会」を2018年4月に設置しました。
2019年10 月に「気候変動を踏まえた治水計画のあり方提言」が本検討会においてとりまとめられ、治水計画の立案にあたり、実績の降雨を活用した手法から、気候変動により予測される将来の降雨を活用する方法に転換する治水計画の考え方が示されました。
また、2021年4月に同提言の改訂版として、気候変動を踏まえた治水計画を作成していくための具体的手法等がとりまとめられました。改訂版では、気候変動を考慮した治水計画へ見直すにあたり、計画で想定する外力を世界の平均気温が2℃上昇した場合を想定した降雨量とするとともに、過去に経験したことのない雨の降り方も考慮した上で、治水対策の検討の前提となる基本高水を設定すべきことが示されました。
東北地方整備局としてもこれらの提言を踏まえ、頻発化・激甚化する洪水被害に対応すべく、気候変動によるさらなる外力の変化も想定した手戻りの少ない河川整備メニューの検討、施設能力や目標を上回る洪水に対し地域の水災害リスクを低減する減災対策の検討、雨の降り方(時間的、空間的)や土砂や流木の流出、内水や高潮と洪水の同時生起など、複合的な要因による災害にも効果的な対策の検討を順次進める方針です。
本格的に動き出した「流域治水」
――「流域治水」の本格稼働に際して抱負は。
栗原 従来の治水では、河川、下水道、砂防、海岸等の管理者主体のハード対策を河川区域や氾濫域においてそれぞれで実施してきており、一つのテーブルに着いて、個別の取り組みをお互いに一つのプロジェクトに組み込むことはあまりできていなかったといえます。
「流域治水」により、国・都道府県・市町村、企業・住民など流域全体のあらゆる関係者の協働によって、河川区域や氾濫域のみならず、集水域含めた流域全体で対応し、水害を少しでも抑えるという取り組みに至ったことは大きな転換と感じています。
2021年3月30日に、東北地方整備局管内全ての一級水系(12水系)、二級水系のうち小本川(岩手県)において、「流域治水プロジェクト」を公表し、引き続き、他の二級水系においても策定・公表を進めていく予定です。
今後、各種対策を具体化し、各地域の特色を活かした流域治水を進めていくためには、関係機関との一層の連携が不可欠です。下水道、都市(公園を含む)、住宅、道路等、整備局内の関係部局のみならず、東北農政局、東北経済産業局、東北運輸局、東北森林管理局、気象台等とも連携を強化し、各流域治水協議会での議論状況やそこで浮かび上がる地域の課題等を共有しながら、各流域のプロジェクトの内容を1つずつ具現化していきたいと考えます。
また、「流域治水プロジェクト」の取組みを推進していくためには、関係者間の連携はもとより、地域の方のご協力・ご理解が不可欠です。そのためにも、これまでは主に河川の中に目を向けて仕事をしてきた私たち整備局職員が、これまで以上に流域全体を俯瞰し、地域への理解をより深めるとともに、これまでの仕事の仕方にとらわれない柔軟な発想を持ちながら仕事をしていくことが大切になっていきます。