――ドローン点検技術を選定するにあたって特に注意すべき点はなんでしょうか?
小林研究員 本インタビューのテーマでもあるのですが、ドローン点検技術の研究開発者として、実際の現場で実用的に精度管理が可能な技術か否かに尽きます。ドローンを人力操縦して、高く、遠く離れた場所で、実用的に、点検対象部材に対して間隔〇m、角度〇度にできますか?ということです。
もちろん、性能確保条件を満足するまで人力操縦で撮影し続ける方法はありますが、満足するか否かはときの運となりいつ終わるか分かりませんし、いくらかかるかもわかりませんよね。
あと、最近ではSLAMによる自律、自動飛行技術を実装した小型のドローンの話題を聞きます。狭隘部、具体的には桁などに衝突せずに床板下面に接近できるなど、飛行制御技術としては大変に素晴らしいもので、私たちも注目しています。
しかし、狭隘部は一般に暗く、加えてドローン機体が小型であるためカメラ性能が低いことから、点検に必要な精度の画像の撮影が難しいことを確認しています。そのため、点検に活用される場合は、そもそも点検に必要な精度を確保できるか?そのうえで精度管理が可能か否かについて慎重に検討されるとよいでしょう。
――精度管理という側面から点検支援技術の活用に関する考えをお聞かせください。
小林研究員 近接目視では意識していなかった精度管理を、点検支援技術では具体性をもって実施が求められます。
これは、点検結果が診断の資料であることを考慮すれば当然のことで、点検支援技術の開発者のみならず、技術の使用者も注意する必要があります。
どのように、どの程度の精度管理を行なえば診断に影響がないか?あるいは維持管理結果に影響がないか?は未知ですので、最初は、診断が可能であることが分かっている近接目視と同等の精度が得られるように管理することが必要、そのような部材、損傷に限定して活用し始めることが必要であると強く認識しています。
ドローン事業者さんが、精度管理することなく橋梁の外観をドローンで撮影することを「点検」と称しているのに危機感を覚えており、本インタビューが警鐘となることを願っています。
人と機械の点検業務の分担・補完 ~三木千壽東京都市大学長に聞く
国土交通相の諮問機関である社会資本整備審議会の道路分科会道路技術小委員会で、2014年~2018年の5年間、委員長を務めて道路の老朽化対策を議論してきた三木千壽東京都市大学長に聞く。三木教授は「橋梁の疲労と破壊」や「橋の臨床成人病学入門」などの著書があり、また、2017年に、鋼橋の経年劣化の一つである疲労き裂が初期段階では微細で点検時に見落とされることが少なくないことへの対応策として、実橋で発生した疲労損傷事例をもとに近接目視するべき部位を学習できる教育ソフトを開発、使用者にアンケートするなどした検証結果も加えた「鋼橋の疲労損傷に関する近接目視点検教育ソフトの開発」として論文報告もしている。現在、続編として、鋼橋点検のためのデジタルツインを打ち出した論文を土木学会のメンテナンス論文集に投稿中で、3月のシンポジウムに合わせて閲覧ができるようになる見込みだ。
――橋梁定期点検において、国土交通省でも先端技術などを採用した点検支援技術の活用を促進しています。また、昨年にはデジタル庁が「アナログ規制」撤廃の前倒しに言及しました。橋梁点検は「目視規制」の対象で「人力でなければ判断が難しい限定的な場合に限って目視、立入による検査等を実施」とされる区分に分類されています。橋梁点検において人と機械の役割分担、補完について、お聞かせください
三木教授 やはり、現場が重要です。点検の現場を見て、使うべき手段を決めるべきです。
近接目視、on hand inspectionは点検の最も重要なところであり、近接目視と同等な点検ができるのであれば、ドローンでもロボットでもどうぞ、ということです。欧米では近接目視をon hand inspectionと呼びます。これは距離だけではなく、手で触れるような点検を意味しています。定期点検要領での近接目視はon hand inspectionを想定しています。腐食のような損傷についてはドローンでも見えるでしょが、疲労き裂については、今の技術ではダメでしょう。
私は、社整審の技術委員長を退く際に、3つの”遺言”を残しました。その1つは点検技術者の資格化です。今もそれらしい資格認定をしていますが、これは非常に重要です。点検の専門家ではない者が点検にあたっているようなケースが見受けられます。何のために点検するのか、それは診断のためです。つまり、診断ができる情報として満足し得る点検ができていなければダメなのです。
2つ目は点検と診断は違うということです。点検で何か出てきたときには、詳細調査とそれに基づく診断が必要です。今は、医療現場に例えると、検査技師が診断し、場合によっては治療までやっているのではないでしょうか。診断とは、ひび割れ、き裂などが検知されても、それが有害かどうか、将来、致命的な減少につながるかどうかの判定です。
3つ目は新技術をきちんと評価し、取り込むことです。近接目視と同等であることを、どこでどのように審査するかです。熟練技術者はどこに損傷が出やすいかを知ったうえで点検をします。したがって、効率的に点検ができます。しかし、予備的な情報や知識なしでの全個所点検は大変なことです。鋼床版の疲労き裂などは、ドローンやロボットでは検知できない代表です。溶接のルート部で発生し、進展しますから、高度な知識がないと、それに適した点検技術を適用しないと難しいでしょう。
「人力でなければ判断が難しい限定的な場合に限って目視、立入による検査等を実施」。総論はそうでしょう。重要なのはその先の各論で、やはり現場を知ったうえでの議論が大切なのです。そして、点検の現場を見て、使うべき手段を決めるべきです。どのように、そして誰が「限定的な場合を特定」するのでしょうか。
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