医療施設など非住宅への引き合いも活発に
――さまざまな技術革新によって、木造化が進展しているんですね。
依田氏 ええ。また、市場戦略としてはまずは木造のマンションのマーケットを拡大していきます。当社としては4~6層までの横に広いマンションの市場を獲得し、中小の木造ビルも視野に入れています。たとえば、木造のオフィスビルであれば6階までを狙っていきたい。ほか有望な市場として医療施設をにらんでいます。
いま、医療施設「(仮称)金澤病院」(長野県・佐久市)を施工中ですが、同物件は3階建て大規模木造病院をツーバイフォー工法で施工し、国土交通省 2022年度「優良木造建築物等整備推進事業」に採択されました。工法の特性を活かし、柱のない広く開放的な空間を確保し、利用者やスタッフにとって効率的な院内動線や将来的な医療体制の変更にもフレキシブルに対応できるよう、可変性の高い病床計画に対応していきます。

現在、施工中の医療施設「(仮称)金澤病院」(完成予想図)
そのほかにも、木造3階建て耐火建築の医療施設「佐倉整形外科眼科病院」(千葉県・佐倉市)が昨年11月に完成しておりますが、こうした実績もあり医療施設からの引き合いも増えています。診療所と異なり、施工難易度が高いため、どこまでチャレンジできるかは課題の一つですが、住宅分野だけではなく医療施設をはじめとする非住宅分野の強化を検討しています。
――現在、工事中の「(仮称)キャンパスヴィレッジ生田」はどのような物件なのでしょうか。
奈留氏 建物の用途は学生レジデンスで、全体で130戸、地上6階建てで、地上1~2階がRC造で2時間耐火、3~6階が木造で1時間耐火となっています。敷地面積は約1551m2、建築面積は約767m2、延床面積が約3197m2で、工期は2022年12月に着工し、2024年3月に竣工する予定です。
東急不動産では、学生が安心安全に過ごせる住まいづくりを目指して、学生レジデンス「CAMPUS VILLAGE(キャンパスヴィレッジ)」シリーズを展開されています。

「(仮称)キャンパスヴィレッジ生田」の食堂入口イメージ
――この工事はどのあたりまで施工されていますか。
中瀬氏 基礎が終わり、1階の柱壁の配筋・型枠の施工中です。基本的にはRC造と木造部の構造を切り離すとそれぞれは普通の構造になります。ですから現段階では、通常のRC工事を粛々と進めています。
――プライベートへの配慮があるとうかがいましたが。
中瀬氏 住宅業界最高レベルの高遮音床システム「Mute(ミュート)」を導入しています。コンクリートを使用せず制振パットを挟む手法で遮音するため、短工期で木のやわらかさを残しながら、上階の音の伝播を低減し、RC造と同等クラスの遮音性能を確保しています。これは当社の木造賃貸住宅にかねてより 装備してきましたが、今回の「(仮称)キャンパスヴィレッジ生田」にも採用が決まっています。

「高性能遮音床システム Mute(ミュート)」
――これからの木造施工ではどのような工夫が考えられますか。
中瀬氏 施工時の安全性の向上や工期短縮を図るため、さらにパネル化を進展させ、現場での施工の効率化を進めることがポイントです。高層化していくと、楊重の時間もかかり、パネル枚数や部材が多いと効率が悪い為、効率のよいパネル化と、逆にパネル化しない場所も設けるなど、施工計画に工夫が求められていきます。
こうした工業化は、建設技能者がこれから高齢化し、次々と引退していくことを考えると必然的とも言えます。なるべく既製品を使用して、現場の作業を減らすことは重要で、また金物取付や穴あけ加工、下地や耐火被覆、内外造作など、工場で完了させる割合を増やしていくことを進めていく必要があります。
――施工が難しい混構造は、管理する技術者の能力も求められます。どのように育成すべきでしょうか。
中瀬氏 建設業界は経験工学的な部分がありますから、どうしても現場をより多くより深くこなしていくことが基本になりますので、育成に関してはなるべく丁寧な指導と実践の繰り返しが育成につながります。混構造の技術はまだ体系的に確立されているわけではありません。しかし施工のガイドライン化・マニュアル化が進展していけば、現場監督の理解と成長が早まることと期待しています。
奈留氏 当社では、ツーバイフォー工法での工業化住宅を進めてきました。その為、専用住宅での設計・施工については、知見の蓄積があります。「MOCXION INAGI」「(仮称)キャンパスヴィレッジ生田」も上部木造部分はツーバイフォー工法になりますから、基本的技術を応用したものの改良・採用を設計者が理解して具現化出来ることが重要と考えます。各人が力量を伸ばし、より知見が蓄積されていけばマニュアル化も実現していくと考えます。
学校・空港の一部施設への工事も進む
――これから公共性の高い工事、学校などいろいろと考えられますが、参入・強化は検討されていますか?
依田氏 学校法人からの校舎の建て替えに関するお声がけは増えており、代表的な事例では英国名門のインターナショナルスクール「Rugby School Japan」が2023年8月下旬に開校しますが、このうちの設計・施工の一部を担当しています。学校の木造化の事例は増えてくると考えています。
奈留氏 別物件ではありますが、阿蘇くまもと空港の屋根部分を2×4工法のトラスで施工しました。
すべてを木造化するのではなく、適した構造の中での木造化がエッセンスの中に入ってくることが今後の取組みとなっていきます。ただし共同住宅は木の方が居住性は高く、用途と構造的特徴を考えた上で、混構造は有効な手段と言えます。

阿蘇くまもと空港の屋根部分を2×4工法のトラスで施工。全量熊本県産杉を活用(写真提供:熊本国際空港株式会社、事業者:熊本国際空港株式会社、設計監理:株式会社日建設計、工事監理:株式会社梓設計 施工:大成建設株式会社、木構造屋根組工事:三井ホーム株式会社)
――今後、木造や混構造の建物への要望も強まるかと思いますが、普及に向けた課題は。
奈留氏 「(仮称)キャンパスヴィレッジ生田」は2層がRC造です。これは上部より5層目以下は2時間耐火を要求される為です。防耐火の要件が整備され、防耐火要件が緩和されれば、さらなる上層への挑戦が可能になります。
現行では、4層を超える部分は2時間耐火が求められ、石膏ボードが3枚張りになり、外壁の仕様も限定されます。それによりデザイン性も含め、経済合理性に課題が生まれます。防耐火要件の緩和に期待したいところで、その上で、マンションの木造化が加速し、価格が抑えられてくることが普及の条件になるように思います。
当社としても、技術的には各物件としては完結しているものの、更なる理想を求めてあるべき姿を模索している段階です。具体的には構造の軽量化や木造屋根防水の改良など、木造の特徴を活かすことやネガティブな要素の払拭が出来ればいいと思っています。
依田氏 当社は、これまでに5,700件を超える木造施設系建築の施工実績があります。今後も木造マンション「MOCXION」を通じて、賃貸住宅から寄宿舎、社宅など多様な用途での需要の取り込みを図ることで、中層大規模建築物の木造化・木質化を促進し、SDGsや脱炭素社会の実現に貢献していく考えです。
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