損をしてでも、守るべき他者との関係性
施工:ダメな土木技術者とは?
宮内:「閉じてしまう人」ですね。仕事は、常に他者との関係性の上に成り立っていることに気づかない人、自分の仕事だけをやっていれば良い、と考える人です。そんな人は、おそらくどんな仕事もダメでしょうけど、とくに土木の仕事ではダメですね。土木は、一人でできる仕事ではありませんから、行動や発想の原点がすべて「自分中心の人」は、技術者として成長できません。
例えば、公共工事では発注者との関係があります。私は、好き嫌いにかかわらず、発注者と受注者は運命共同体だと思っています。また、地域との関係もあります。そういう関係性の中で動くのが土木の仕事です。ものをつくって、書類をまとめて、納品するだけではないんです。他者との関係性を考えない当人が、仕事がうまくいったと思っているとしても、実際は、そんな甘いものではありません。
施工:例えば、自分の都合を優先して、すべての段取りを決める人とか?
宮内:そうですね。自分の現場、自分の会社のことしか考えない人もそうです。
例えば、隣の村で大きな崩壊が起き、道路が通行止めになったことがありました。うちの会社の現場で通行制限をする必要がありました。その手前には、他社さんの現場があり、そこも通行制限しないと工事が進められない現場です。ところで、うちの会社の現場には、大量の生コンが必要なもう一つの現場があって、他社さんの現場で通行制限されると、生コンを運べません。うちとしては困ります。
この場合、うちの2つの現場のことだけ考えるのは、組織の人間として、まったく正しい。そう割り切るほうが楽ですしね。しかし、他社さんの現場のことはまったく考えないで良い、ということにはなりません。落としどころというか、相手との妥協点を探る必要がある、と私は考えます。普通は、自分の現場を最優先に考えるので、私は逆のことを言っているわけですが(笑)
施工:正しいけれど、「それは違う」と?
宮内:違います。
施工:そこは言い張る?
宮内:言い張りますねえ(笑)。長い目で見たら、いろいろなコミュニケーションが良い効果を生み出して、うまく回っていくと考えるからです。局所的には損をしてでも、守るべき関係性はあると思っています。一言で言えば、バランス感覚です。
休みが増えても、建設業界が魅力的になるとは思わない
施工:建設業界的に、若者の入職者が少ないという問題が指摘されていますが?
宮内:私は経営者ではありませんが、悩ましい問題です。私は十分魅力的な業界だと思っていますが、今の若い人たちにとっては、魅力的な業界ではないんでしょうね。そこで今、休みを増やせば魅力的な業界になる、という流れが出ているわけです。ただ、私は、それによって建設業界が魅力的になるとは考えていません。
建設業界は、かつては、学歴社会からはじかれた若者たちの受け皿でもありました。学歴関係なく、やる気があればできるし、役割が与えられる仕事なんです。この業界の良い意味での特色です。休みが増えることで、やる気が増す、とは私には思えません。
確かに、今の若い人たちにとって、週休2日は当たり前かもしれません。しかし、だからといって、建設業を支えているそういう人々、「俺は休みはいらないから、稼ぎたい」という人々が食えなくなるようなことにはなって欲しくありません。目指すなら、何よりも「食っていける」業界であるべきです。休みを増やすのは、その次じゃないでしょうか?
私が会社に入ったころは、月に2日しか休みはありませんでした。とくに繁忙期の1〜3月はほとんど休みがありませんでしたが、日給月給だったので、日数を稼ぐことで、家族を養っていけました。
建設業界では「若者が入ってくれない」という嘆きが多いですが、私を含め、当事者たちは自分たちの業界に魅力がないとは思っていないわけです。しかし建設業は、多くの若者にとって、魅力がない業界なのだという事実を認識した上で、これまで情報発信してきたのかというと疑問です。この業界の情報発信ベタには、驚異的なものがあります。
うちの会社では、高校生を対象に現場実習などを行っています。この辺りでは、会社単独でそういった活動をしているところは、ほぼありません。私自身、年に1回、地元高校の土木科に民間講師として呼ばれ、学生にものづくりの楽しさや災害復旧の話などをしています。それらのことをきっかけに、うちの会社に入った子もいます。土木科の学生にもかかわらず、職業として土木を選ぶ気がない子も多くいますが、考えが変わって、地元企業に就職した子もいます。そういう活動を多くの会社がやっていけば、ちょっとは事態が改善されるのではないかと思います。
施工:建設業協会任せではダメだと?
宮内:建設業協会の役割も大事ですが、個々の会社がやらなければいけないと思っています。「大きな会社でやってくれよ。俺たちは力ないし」みたいな考えではダメです。
施工:人手が足りないので、若者や作業員を取り合うこともある、と聞いています。
宮内:田舎の同じ建設業とは言え、当然、企業間の競争はあります。他社さんより、うちの会社のほうがより魅力的だ、ということをしっかり示さなければいけないことはあります。
施工:かと言って、人を採用し過ぎてもいけない。
宮内:以前に比べれば、今のところ、工事の単価が上がって、会社も一定の利益を出せるようになっていますが、来年どうなるかはわかりません。そこで、人を増やすかどうかは大きなジレンマです。難しいところです。
ICTを導入しても「土木の泥臭さ」は変わらない
施工:i-Construciton導入で生産性を向上させ、人手不足を補うという考え方があります。
宮内:CIM(Construction Information Modeling)という3Dモデルを使って、調査設計、施工、維持管理というサイクルを回して建設生産性を向上させる取り組みがあります。建築の分野で考えられたBIM(Building Information Modeling)を土木の世界に持ち込んだものです。
うちの会社では、CIMをやっているとは、おこがましてくて言えないようなレベルですが、3Dモデルを活用した仕事の導入に力を入れてきました。私は、フェーズが変わる新しい流れだと感じたからです。以前、手書きの図面だったものがCADに変わりましたが、CIMはその延長線上にはなく、まったく違うもの、仕事のやり方そのものが変わるシステムであり、先取りをしていく必要があるということで、自分たちなりにやってきています。
その上で、i-Constructionについては、否定的です。ムチャクチャ否定的です。ICTに対して否定的なのではなく、国の進め方に対して、否定的という意味です。理由は、それを建設生産性システムの向上に直結させるというのが目的だからです。土木は、人間、自然相手の仕事で、どうやってもそこから抜け出すことはできません。私は、「抜け出してはいけない」とすら思っています。
例えば、全く素人のお嬢さんでも、バックホーを使って作業が簡単にできますよ、という宣伝をしています。ただ、土木の現場はそんなものではありません。先日、九州で豪雨被害がありましたが、テレビで大量の土砂が流れている映像が出ました。われわれ土木技術者は、水を含んだその土砂の重さを知っています。当然、知っていなければなりません。地球を相手にする土木という仕事でもっとも大切なのは、そこから生まれた人間の経験と勘です。
ひねくれたものの見方かもしれませんが、国は、その辺の経験則を無視して、i-Constructionを進めようとしているように見えるので、もっていき方が違うと感じています。あくまで、人間が主で、機械はサブです。なのに、国は、ICTにより人手がいらなくなります、だから生産性が上がります、という話ばかりしているように思えてなりません。
土木はマンパワーに支えられています。人手がいらなくなることは、今後も絶対にありません。省力化はもちろん重要事項ですが、先端技術は、より余裕を生み出すとか、より良い仕事ができるようにすることなどを目的として、導入するべきです。いくらICTを導入しても、土木の泥臭い部分はなくならないからです。
とはいえ、テクノロジーの進歩やイノベーションを拒否することは、技術屋として「死んだも同然」ですし、積極的に大きな流れに乗っていくべきだというのが、私の考えです。だから、私は「先端技術と泥臭さのハイブリッド」が必要だと思っています。
宮内さんは「答えは現場にあり!技術屋日記」というほぼ毎日更新のブロクを書いています。宮内さんのお話に興味を持たれた方は、こちらもチェックしてみてはいかがですか?有限会社礒部組は、任意団体の「三方良しの公共事業推進研究会」のメンバーであり、こちらの方でも宮内さんは講演などを行っているようです。
宮内さんは、話すことも書くこともお好きなようです。インタビューで語っていた「他者との関係性」。これは土木の仕事という文脈で語られた言葉ですが、土木に限らず、宮内さんの生き方に関係のある言葉ではないだろうか、という気がしています。
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