「なんでもやります」は「なにもできない」と同じ
現在は好調を維持する三和建設だが、森本社長が入社した2001年当時は、国内景気の低迷に伴い資金繰りに窮していた。創業時からのあらゆる資産を売却し、まさに「なにもない会社」になったという。2008年の社長就任後も苦境は続いたが、会社を支えた有能な社員やパートナー会社とともに乗り越え、今日に至る。
昨今の建設業界ではDXやAI活用の推進が叫ばれているが、森本社長は「人の役割の重要性こそ再評価すべきだ」と未来を見据える。三和建設が第一に掲げるのは、人を軸にした永続的な繁栄だ。「我々は人によって選ばれ、人とともに成長していく会社」と強調し、2013年にはその想いを込めて「つくるひとをつくる®」という経営理念を制定した。建物づくりに関わるすべてが「人」によって生み出される以上、建物を建てること以上に「人」を育てることが三和建設の事業の本質であるとの決意表明だ。
こうした想いを明確にする経営手法を「理念経営」と呼ぶ。「つくるひとをつくる®」という理念を制定した理由は三つある。第一に、シンプルで覚えやすいこと。第二に、全社員が自分事として捉えられることだ。「人をつくることに関係のない部署はない。全員に当事者性が生まれる。第三に、時代を超えた普遍性があること。経営理念とは普遍的な価値を提供するもので、今後AIがどれだけ進化しても、人を育てる価値は永続的で通用し続ける」と、森本社長は理念に込めた普遍的なメッセージの重要性を語った。

続いて森本社長は、選ばれる会社であるための「集中戦略」の重要性を説いた。現在の三和建設は、BtoBビジネスを強化し、特定分野に強みを持つ設計施工で信頼を勝ち取り強固な基盤を形成しているが、かつては苦い失敗経験があったという。当時、取引先の金融機関などに「工事の予定がある企業を紹介してください」と営業をかけていた際、担当者から「三和建設さんの得意分野や特徴は何ですか?」と問われた。それに対し、当時の同社は「どんな建築工事でも分け隔てなくご紹介ください。なんでもやりますから」と答えていた。
しかし、この「なんでもやります」という回答こそが大きな間違いだった。「特徴がない会社だ、逆に言えば『なにもできない会社』だ」という印象を与えてしまっていたのだと、森本社長は当時を振り返り推察する。
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しぼれば広がる、独自ブランディングの展開
数多あるゼネコンの中で、三和建設が「かけがえのない存在」になるためには、従来の御用聞きのような営業スタイルを脱却する必要があった。紹介を依頼する相手の記憶に強く残るメッセージが必要だったのだ。経営学者ピーター・F・ドラッカーが生涯を通じて「何によって憶えられたいか」を問い続けたように、三和建設もまた、顧客の記憶に残るための施策を模索した。
そこで採用したのが、「しぼれば拡がる」という独自のブランディング戦略だった。専門性の高い分野に経営資源を集中させる決断をしたのだ。森本社長はわかりやすい例えを用いてこう説明する。「たとえば、深刻な花粉症に悩む患者がいるとして、駅前に『一般耳鼻科』と『花粉症専門クリニック』があれば、間違いなく後者を選ぶだろう」。
顧客は、自分専用のソリューションにこそ価値を感じる。これまで建設業界では入札による価格競争やダンピングが横行してきたが、それはゼネコン側が建物の価値を明確に示してこなかったことの裏返しでもあり、顧客に対する判断軸の「見える化」が不可欠だった
三和建設はこの考えに基づき、事業分野の絞り込みを断行。「食品工場」「特殊機能倉庫」「社員寮」の三分野に集中した。
まず展開したのが、食品工場建設に特化したブランド「FACTAS®(ファクタス)」だ。この名称には「工場(ファクトリー)に価値を足す(タス)」という意味が込められた造語である。単に建物を建設するだけでなく、顧客の食品事業そのものに付加価値をもたらすことを目指している。

銀座アスター食品 匠工房を完工。オーダーメイドの食品工場を設計するブランド「FACTAS®」を展開
次に、特殊な用途に特化した、オーダーメイドで最適な倉庫を提供するブランド「RiSOKO®(リソウコ)」を展開。危険物倉庫、冷蔵倉庫、自動倉庫など、高度な専門知識が求められる倉庫建設を得意とし、多様化する物流ニーズに応えている。

大手物流企業の山九北勢第3物流センターを完工。特殊機能倉庫に特化した倉庫建設ブランド「RiSOKO®」(リソウコ)も順調に推移
さらに、社員寮建設を通じて企業の人事課題解決を支援するブランド「HuePLUS(ヒュープラス)」も立ち上げた。「社員のエンゲージメントを高める」ことを目的に、企業が人を育成・成長させるための教育的要素を持った社員寮を提案しており、森本社長はこの分野の成長に自信をのぞかせる。「単なる事務所や一般的な建築では差別化が難しい。しかし、食品工場、特殊機能倉庫、そして人を育てる社員寮にリソースを集中投下することで、他社にはない強みを顧客に提供できている」(森本社長)。



