耐震補強・改修工事のトップランナー、丸高工業
――丸高工業の沿革を教えてください。
丸高工業 丸高工業は大正10年創業で、当時は漆屋でした。その後、耐震・改修工事などの設計・施工を手がけるようになり、私で三代目です。主な取引先は竹中工務店で、竹中工務店の専門工事会社から構成する「竹和会(ちくわかい)」のメンバーです。
東京ドーム、東京タワーなどの現代建築だけではなく、歴史的建造物も手掛けています。日本で最初のバーとして有名な、神谷バーの耐震補強工事も担当しました。神谷バーは長期間の店舗休業ができないため「居ながら施工」を実施して苦労しました(笑)。
――改修工事は先行きも良さそうですね?
丸高工業 建設業界は好況に沸いていますし、これからも耐震工事や改修工事はあるでしょう。しかし、人手不足の観点から、このままでは丸高工業だけでなく、建設業全体が大きな危機に見舞われると感じています。リーマン・ショックを契機に、多くの建設職人や同業者が廃業しましたが、さらに日本建設業連合会(日建連)の試算では、建設業就労者の高齢化により、今後10年間で建設技能労働者110万人が離職すると言われています。次の若者が入職してこないので、現場管理者や熟練工の育成、世代交代が困難になってきています。
――丸高工業も危機を実感している?
丸高工業 丸高工業でも新たな入職者を求めてリクルートを試みましたが、若手の採用は困難でした。特に耐震補強や改修工事は土日勤務が多く、若者がまったく集まりません。職人の手配についても、途中で必要な人員が集められないこともあり、そうなると工期が延びることや、職人の賃金も上がり、その結果、受注不調も増えています。さらに職人の技能伝承もできず、このままでは大変なことになります。大きな構造的な問題が建設業界に立ちはだかっているのを実感しています。
建設現場の作業工程1つ1つを分析
――技能伝承の問題点はどこに?
丸高工業 職人の技能伝承を阻むのは、若手不足だけではありません。建設業界は従来、職人たちの熟練した技能に依存してきました。確かに職人の素晴らしい技能は今後も必要です。 しかし問題は、自動車業界が実施したような「技術の標準化」に、なかなか踏み込めなかった点です。
ゼネコン側からすれば、職人の問題は協力会社の内部のことであり、職人も自分の技能を簡単に人に教えることが難しい。職人技は言葉で伝えるのがとても難しいという側面も、技能伝承を困難にしています。そこで丸高工業では、職人のワザを「見える化」し「標準化」するために、建設現場での作業工程1つ1つをビデオで撮影し、分析することにしたわけです。すると興味深いことに、作業工程の中で職人の熟練技が必要なのは、1割くらいだということが分かりました。つまり全作業の、9割の部分を標準化できれば、生産性はおおいに向上するというわけです。
――すごい。具体的には?
丸高工業 まず分析によって職人の作業は、3つに分類できることが分ってきました。1.利益を確保する職人技の「正味作業」、2.職人技を必要としない運搬作業などの「付帯作業」、3.「無駄な作業」の3つです。
そこで丸高工業では、職人には「正味作業」に専念してもらい、ほかの作業は非熟練者で対応するように標準化しようと試みました。非熟練者も職人とともに作業していく中で、自然と職人の技能を覚えていくという効果も期待できます。東京都・大田区にある丸高工業のリニューアルイノベーションセンターで試行錯誤を繰り返し、例えばおよそ1年をかけて床のOAフロア作業を標準化するのに成功しました。
――建設技能の標準化とは?
丸高工業 例えば、天井ボードの貼り付けには、精密な計測が欠かせません。従来は、高度な職人のノウハウが必要でしたが、自社で型取り定規を開発し、長さや角度を細かく計測することなく、誰でも新しい形状に材料を切断することが可能になりました。
床の場合はもっと複雑な形状を計測し、加工・切断することが必要ですが、こちらも床用型取り定規を開発しました。床のカタチにあわせて自由に変形し、寸法をはからずに熟練職人でなくとも正確に床材を切断・加工できます。職人でなくても、職人レベルの仕事が可能になりました。