将棋会館の耐震補強工事で活躍した消音化工法
――今回「勇気ある経営大賞」を受賞した目玉の技術「タイルメクリックス」の効果は?
丸高工業 いくら作業の標準化に成功しても、タイル改修工事の騒音問題は解決できませんでした。従来の工具では、打撃や振動でモルタルを撤去するため電車のガード下と同じくらいの騒音が発生します。そのためタイル改修工事は休館日や盆休み、正月休みに工事が集中し、それを嫌がる社員が会社を辞めてしまうこともありました。騒音はクレーム、工事の長期化、最終的にはコストアップにもつながり、お客様にとっても、たとえばホテルの改修工事でフロアを何ヶ月も閉鎖するとなれば作業による損害も出てしまいます。
そこで「タイル改修工事で騒音が出るのは当然」という既成概念を打ち破るため、試行錯誤を繰り返して自社開発したのが消音工具「タイルメクリックス」です。コンクリートとモルタルの間に刃先を入れてめくりとるため、騒音を大幅に低減することに成功しました。タイルをはがすと同時にモルタルも回収するため、粉じんもほとんど発生しません。
丸高工業が開発した「タイルメクリックス」
タイルメクリックスを使用すれば、従来工具で100dbだった音量が65dbまで低下し、インパクトドライバーによるネジ締め付けは90dbであったのが、消音ドリルを使うことで65dbに低減、ハンマードリルによるモルタル撤去は通常100dbですが、メクリックスによるモルタル撤去では65dbに低減します。
――タイルメクリックスはどんな現場で活躍を?
丸高工業 将棋会館の耐震補強工事では、谷川浩司永世名人から感謝の色紙をもらいましたね(笑)。将棋会館内での対局の模様はテレビ放送されるので騒音を出せませんし、近隣住民からクレームが来るとその時点で工事はストップしてしまいます。騒音のせいで放送がストップすれば、将棋連盟はじまって以来の不祥事になるという難工事でした。そこで将棋連盟の理事の方々から、55dbでの消音工事が可能なタイルメクリックスを採用いただき、工事を実施することになりました。
――タイル改修工事での消音化と標準化の効果は?
丸高工業 工事現場によりますが、従来の土日、休日、夜間に施工していた工事に比べて、工期は30%~50%短縮、工事費は70%低減しました。工事原価も高くならないので予算内での契約が可能になり、売上げもアップしました。繁忙期であれば工事を断るケースもあるかも知れませんが、現場作業の標準化によって、受注量も増えました。
工事の長期化、工期の遅延がなくなった結果、完全週休2日制も可能になり、若手採用の観点からも、新入社員の応募が約100名まで増えましたし、一般社員の離職者も大幅に低下しました。さらに建設生産活動の場での女性活躍も、作業の標準化と資機材の軽量化によって実現できるようになりました。
建設産業システムを整備する「協会設立」へ
――女性活躍については?
丸高工業 弊社の開発センターには、経済学部、文学部卒業の女子社員もいて、女性目線で工具を開発しています。女性社員に「タイルメクリックスをどう思う?」と質問すると、「軽い方がいい」「可愛くない」と遠慮ない提言が出てきます(笑)。先日、テレビ局の女性キャスターが取材に来ましたが、タイルメクリックスは女性でも簡単に扱うことができていました。今後さらに女性目線のアイディアを取り入れ、タイルメクリックスだけでなく、大半の工具をより軽く進化させていけば、男女がペアで働く現場も増えていくでしょう。
――今後の丸高工業の取組みは?
丸高工業 自社の技術を丸高工業だけで囲い込むつもりはありません。丸高工業の標準化生産システムや、生産性向上の取組みを多くの皆様に知ってもらい、技術・技能を共有研鑽するための「協会」みたいなものを設立したいと考えています。施工会社だけでなく、マンションや物件のオーナー、設計事務所、ゼネコン、専門工事会社など、さまざまな方々が活用できるように、そして、建設業がより発展するために、建設生産性のさらなる向上に取り組んでいきたいと思います。例えばタイルメクリックスなど丸高工業で開発した機械工具も全国的にレンタルなどで提供していくこともその1つであると考えています。
標準化生産システムに関しては、海外事業も視野に入れています。たとえば築50年以上の建築構造物が増えているシンガポールでも、耐震補強・改修工事の技術者が不足しています。日本に留まらず、海外でも標準化された技術が普及していけば 適切に建物の安全性を確保し、維持保全がはかられていくようになるのではないでしょうか。
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