トンネル工事で落盤事故に遭う
――土木を辞めたきっかけは何ですか?
オダ トンネル工事をしていた際に落盤事故にあいました。死にかけた恐怖からか今までの作業ができなくなってしまいました。100点の人間はいませんが、過労によるミスや工程抜けはあります。でもそこは現場を仕切る監督が目を光らせるべきと思いますが、慣れは手抜きを見逃します。私が体験したいくつかの事故は、慣れから生じたチェックミスからだと今も思っています。
――土木を辞める時、お父様や社長をされているご友人から言葉はありましたか。
オダ 事故に巻き込まれ、入院しましたからね。ベッドに横たわる私をみて、体の心配をすごくしてくれました。いくら長年の付き合いがあっても、引きとめる言葉はさすが言いにくかったと思います。
――今の仕事を選んだのは何故ですか?
オダ 資本は体です。危険な仕事はもうしたくないなと思い、今はホテルマンをしています。
ホテルの仕事をしたいと強く思って選んだ職業ではありません。自分でもよくわかっていませんが、ただ求人誌を買って、開いたページがホテルだっただけという感じで選んだだけです。土木業は造る世界。ホテルマンは売る世界だと私は考えます。その環境は夏は冷房、冬は暖房のなかでホテルマンは仕事をするので、まったく異なる業種だと思います。
――ホテルの仕事のやりがい、仕事を続けるモチベーションは何ですか?
オダ ホテル業とは販売にあたります。部屋を売ることがホテルマンの仕事です。そのなかでお客様との接客で「良い」「悪い」の結果がすぐにわかることが、やりがいでありもあり、モチベーションにつがると考えます。
私は20代の頃、羽毛布団の販売を行っていました。その時は官公庁、病院などに展示させていただき、来客者に羽毛布団の説明をして売っていました。売るものは寝具一式という販売ツールしかなく、真夏に羽毛布団の販売ですから苦労します。その点ホテルの場合、お客様のほうから部屋の予約がはいるので、販売としては比較的簡単な作業です。簡単だから続いている。今はそんな理由なのだと思います。
――現場に限らず、もう一度土木の世界に戻るという選択肢はありますか?
オダ 私のこれまでの職業は造る仕事の現場作業が多かったです。今はホテルマンとして売る仕事をしていますが、慣れ親しんだ環境を変えるというのは少しばかり勇気がいります。もしかしたら以前事故にあった心の傷口が治まったら、土木業界に戻る可能性は大いにあります。
――土木業界全体に対して言いたいことはありますか?
オダ 国とは人です。公共事業の屋台骨を支える土木技術者の数が圧倒的に足りない気がします。
技術者の人手不足。労働人口の減少。そのなかでどう効率よくという考えが土木業に浸透しつつあります。まあこれは土木業界だけではないのかもしれませんが、どんなに凄い技術者がいたとしても、どんなに凄い働きマンがいたとしても、人間一人の力なんてたかが知れています。暮らし全体を便利にするにはやはり大勢の力が必要なのです。
――土木を辞めた今、外から見た「土木」について感じることを教えてください。
オダ 私の親父は、私が生まれた時から土木一筋の親父でした。その背中をずっと見てきたせいか、今は違う業種に移っていても、街を歩いていればみかける作業員の方につい目がいってしまいます。そしてなぜか出来上がった橋や道路なんかを見ると、ここが甘いななどと感慨ふける私がいます。親父は一昨年他界しましたが、やはり「蛙の子は蛙」ですね。
――お父様に、今伝えたいことがあれば教えてください。
オダ 親父は家のルールを決めていました。食卓は家族揃って「いただきます」「ごちそうさま」。門限もありましたし、兄弟の多かった我が家は年齢に関係なく、なんでも均等に配分。お年玉の金額も統一されていて、兄弟差別は一切ありませんでした。
でも将来の進む道については親父は一切口を出さなかったです。私の家族は高校はみんな違う学校を選択していますし、職業もみんな違います。妹が結婚相手を家に連れてきた時もその夜一緒に酒を飲んでいました。近年は親のリベンジを子供に押し付ける教育が多くなったと言われますが、うちの家庭はそんなことは一切ありません。自分の人生は自分で選択しろといわんばかりでした。その教育方針が世間一般的に良いのか悪いのかわかりませんが。
38歳になった私が、一昨年他界した親父に言葉を贈るなら、「息子は、今、元気にやっています」です。
~後記~ 土木学会若手パワーアップ委員会
同世代と話すと、「自分の子供には土木屋は絶対勧めない」という話が時々出ます。
この言葉、土木屋特有の照れ隠しも含まれているとは思いますが、自分の子供が土木業界で働くところを想像したら、改善しておきたいところは多少ありますよね。
子供が土木の仕事を選ばなくても、インタビューにあるように元気ならもう親としては充分なのですが、もし「自分も親のような仕事がしたい」と土木の仕事を選んでくれたのならば、どんな技術を開発するより、どんな長大橋を架けるより土木屋冥利に尽きるとも思うのです。
その時に、子供たちが思う存分力を発揮できるような土木業界にしておくのは、今この業界にいる我々の大切な仕事なのではないでしょうか。
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