土木は「地球相手」の仕事、24時間労働で乗り切る
さらに困ったことに、沈設工事の中盤で、沈下困難にぶち当たった。
オープンケーソン工法で橋脚の沈設工事を進めていたのだが、掘れども掘れども沈下状況が見られなかったのである。先端の刃口金物を据えてクラム掘削を行っても、沈下は難しかった。今の時代では考えられないが、沈下困難に遭遇した私は、発注者からの要求を完遂するために、休日返上、24時間労働で乗り切るしかなかった。そのためには、現場に寝泊まりするのは当たり前だった。
この困難に対応するため、クレーンオペ、合図マン2名にも現場事務所に来てもらい、夜12時から柱状図・沈下図を前にお互い熱い議論を交わした。
「一生懸命掘っても、外山を呼ぶだけだ!重機足元の桟橋が危ないぞ!」
「先端の刃先をほぐそう!」
「先端の刃先をほぐすのに、H鋼をぶら下げ突矢で!」
熱い議論の末、「3日昼夜、突矢で先端の刃先の土砂を慌てずほぐそう」という納得の結論にいたった。

突矢による先端土砂ほぐし

先端抵抗土砂の除去
そして私の知り得る技術で予備に設置していた「エアー周辺送気噴出配管」でのエアー送気によって躯体周辺摩擦の低減を指示。部下にエアーコック操作を任せた。
「さあ、エアーを送るぞ!」
みんなが時間を忘れ、祈る気持ちで作業に当たった。

エアー周辺送気噴出配管
……日が昇る朝方、私たちの願いが神様に届いたのか、今まで微動だにしなかった大きなコンクリート構造物が静かに沈下すべりを始めた。
「下がれ!下がれ!」と歓喜の合唱をする私とクレーンオペたち。
周辺摩擦低減の成果で土砂との縁が切れたのか、最初はゆっくり、そしてスピードを上げ1m沈下した。再度の挑戦でエアー送気を繰り返し、目的の最終2m強の沈下。
この瞬間こそ、その境遇にいたものしか解らない、土と水(地球)を相手にする「土木の歓喜の渦」を経験した瞬間だった。この時の私たちの歓喜は、オリンピックで金メダルを獲得した喜びにも劣らないと断言できる。
この「土木の歓喜の渦」を経験したら、土木の仕事は楽しくもうやめられない。自分の苦労に地球が呼応する仕事。やみつきだ。土木を目指す若い方々には、ぜひ味わってほしい。