心中しよう
その造船所に就職した同期の者が、先輩から聞いたという話です。
あるとき、鋼製煙突の工事をしていた時のこと。鋼製煙突は先細りの円錐台形の構造物なので、展開すれば扇形の鉄板を円形に曲げ、その寸法を徐々に小さくしてゆくことで、所定の形状に作るものです。
当時、普通の鉄工所では、この微妙に変化してゆく展開図の原寸が書けず、造船所の一手販売でした。
その扇形の上下方向の縫い目と、上下の段の円周方向の継手を現地でカシメてゆくのです。円錐台の1段ごとに足場をかけ、順繰りに上方へと継ぎ足して行って完成させるわけです。
その各段ごとの足場へ行くための階段も設置します。昔のことですから、労働安全の観点なども緩く、足場のみで手すりなど、どこにも無いという状況です。
煙突がかなり立ち上がったあるとき、その先輩監督員はいつものように、鉸鋲後の検鋲をしていました。学校を出立てということもあり、まじめに検査したのか、あるいは検鋲の要領を飲み込んでいなかったのか、かなりの数の不健全を指摘してチョークで印をつけたそうです。
それを見たカシメ屋の打ち手が、
「わしな、あんたが言うような、ええリベットよう打たん。ついては申し訳ないから、ここから一緒に飛び降りて死のう」
と、いきなり監督員に抱き付いてきたそうです。
高い足場の上、しかも手すりのない吹き曝しのところです。一押しされれば、本当に永遠の別れになりそうで、泡を食って足場を駆け下りたそうです。
その事件以来、上にあがることはせず、地上から双眼鏡で作業を見ていたそうです。さすがカシメ屋、度胸一番、本当に飛び降りかねない勢いがあったのでしょうね。
やるもんじゃのう!
昔の職人はカッコいいな、惚れるわな
そうやって脅して検査を通した構造物の不具合が顕在化してきて、いま補修改修ばかりやらなきゃいけなくなったと。ろくでもねーな。
経年劣化だと思います。そもそも質の悪い物は補習改修すらできません。直して使える物ほど、質が良い傾向にあると思うのですが…
申し訳ないから俺は飛び降りる、ならある意味では潔い、だが見ようによってはただの逃げでしかない。
そして一緒に、って話になるとこれはもう、ただの精神的にダメダメだね。
それが本気じゃなく、脅しだっていうなら、そんな輩に施工をやらせるから不具合が出てくる、意識、技術の低さからくる不具合が。
カシメ屋シリーズ。当時の技術や実態を伝えてくれる素晴らしい記事でした。
うんちく亭今昔さんのますますのご活躍に期待しております。