小野小町は穴無し小町
カシメ作業の前には、リーマー通しという重要な作業があります。
繫ぐべき母材と継目板2枚の合計3枚、時によっては4枚の板のそれぞれの継手穴がぴったり合うことは、まずありません。穴がキッチリそろっていないと、リベットが通らなかったり、あるいは、リベット軸がいびつになったりして、100%の力を伝えることが出来ない恐れがあるので,リーマー通し(穴繰り ともいう)が必要になります。
さらに、まれにではありますが、繫ぐための穴が1個だけ開いていないことがありました。現在ではCAD、CAMで設計から製作まで一気通貫のデータで処理されるので、このようなことは起こらないのでしょうが、かつては原寸場で原寸を引き、そこで得られたデータを「しない」(切断用の長さの定規)と型板(小さな多角形のガセットや、継手の穴位置の定規)に落として、これを基に鋼板に罫書し、切断や穴あけを行っていました。
したがって、まれにではありますが、穴をあけ忘れた部材がでることがあります。こういう部材があると、職人は「小野小町だ」といって、いっとき、ニヤついていました。
それは、「小野小町は穴無し小町」という俗説があるからです。
深草少将(ふかくさのしょうしょう)が、絶世の美女であった小野小町に惚れて幾度も言い寄ってきたので、小町はこれを諦めさせようと、「私の元に100夜通ってくれたら思いを受けます」といいました。少将は雨の日も風の日も、毎日通ったのですが、雪の降る99日目の夜に倒れ、息絶えてしまうというような話のあったことから、「小野小町は穴無し小町」つまり身体的欠陥があったと言われるようになったというのが通説のようです。現に、裁縫で使う「待針」は別名「小町針」といい、やはり糸通しの穴がない針です。
話は戻って構造物ですが、工場製作での穴のあけ忘れのほかに、工場製作の際に、最初から全穴(22mmのリベットでは23.5φ)とせずに、一回り小さい穴(22mmのリベットでは22φ)を明けておき、現地組み立ての際に、全穴にするという工作法をとる場合もあります。1分繰という方法です。
そこで、鍛冶屋の中でも「穴屋」という職種があり、リベットを打つ前に、リベット穴の精製作業(「穴ざらい」ともいわれた)をするわけです。
大きな電気ボール盤に1mくらいの天秤棒を通して、2人がかりで穴繰り・リーマー通しの作業をします。大変大事な作業で、カシメの前の必須工程です。
検鋲ハンマー
検鋲ハンマーは柄が長く、その柄は中間から頭部にかけて細身になっており、頭部は片方が尖り反対側は円錐台状になった軽やかなハンマーです。
今はテストハンマーというのが一般的なようです。車庫に入ったバスの足まわりや、今や人気のSLの車輪まわりの検査などに現在でも使われています。
リベットが健全に打たれているかを確かめるため、鉸鋲後に検鋲ハンマーでリベット頭を叩いてゆきます。叩く方向の反対側に左手の人指し指を当て、右手に持ったハンマーで叩いてみると、しっかり打たれた鋲は響きませんが、緩い鋲は左手人差し指にビンビンと響きます。これで良否の判断がつきます。
慣れてくると左手を当てなくても、ハンマーの反発の手応えだけで判別できるようになります。ボルトの閉まり具合なども同様に検査できます。
昔の職人はカッコいいな、惚れるわな
そうやって脅して検査を通した構造物の不具合が顕在化してきて、いま補修改修ばかりやらなきゃいけなくなったと。ろくでもねーな。
経年劣化だと思います。そもそも質の悪い物は補習改修すらできません。直して使える物ほど、質が良い傾向にあると思うのですが…
申し訳ないから俺は飛び降りる、ならある意味では潔い、だが見ようによってはただの逃げでしかない。
そして一緒に、って話になるとこれはもう、ただの精神的にダメダメだね。
それが本気じゃなく、脅しだっていうなら、そんな輩に施工をやらせるから不具合が出てくる、意識、技術の低さからくる不具合が。
カシメ屋シリーズ。当時の技術や実態を伝えてくれる素晴らしい記事でした。
うんちく亭今昔さんのますますのご活躍に期待しております。