軍艦島3Dデータ化は「自腹」だった
——軍艦島と博士課程の研究との関連性は?
出水享 2012年にまとめた私の博士論文は「 光学的全視野計測法を用いた鋼・コンクリート部材の変形・ひずみ計測に関する基礎的研究」というタイトルでした。
写真を使って、インフラ構造物の異常を調べたり、ひび割れの発生予知をしたりと、インフラ構造物の点検・検査をテーマにしたものでした。この研究は、軍艦島とは関係なく、取り組んでいたものですが、結果的に、軍艦島の研究とつながったわけです。
——大学からの研究費は?
出水享 軍艦島の3Dデータ化の研究は、最初は自腹でした。その後大学の予算がついて、最終的には長崎市から委託費が出ました。2014年、ちょうど軍艦島が世界文化遺産になる頃で、タイミングが良かったですね。
世界遺産登録となると、ちゃんと保存するための資料が必要になります。それに関係するデータだということで、委託費が出たわけです。
——遅ればせながら、長崎市にも自分たちの研究が認められたと。
出水享 ええ。最初の数年は、関心をもってもらえませんでしたからね(笑)。
軍艦島2017.7
by Nagasaki_3D_Project
on Sketchfab
3Dデータを公開し、仲間由紀恵さんとも共演
——反響はいかがでした?
出水享 一応、長崎市に3Dデータを納品はしたんですが、当時は3Dデータの価値というものが、われわれを含め、世間的にあまり理解されていなかったんです。完成した3Dデータは、世に出ることもなく、1年間眠っていました。
あるとき、大学の同僚で小島健一氏(ブラタモリにも出演した「社会科見学」の仕掛人。「施工の神様」編集長とも旧知の仲)から「3DデータをYoutubeで公開しようよ。絶対反響あるよ」と言われました。私は半信半疑だったのですが、長崎市に公開の許可をもらって、3Dデータを公開しました。すると、SNSなどを通じて、ものスゴイ勢いで動画が拡散したわけです。
軍艦島は、観光ツアーで上陸しても、限られた場所しか見ることができません。それ以外の場所は長崎市の特別な許可が必要なんです。3Dデータだと、見れない場所でもじっくり見れるのが大きな魅力になっています。拡散した後、さまざまなWebメディアで取り上げられ、それを見たテレビなどでも取り上げられるようになりました。さらに、そのテレビを見た新聞雑誌などに取り上げられたんです。今考えるとものすごい反響でしたね。
——3Dデータを作っていたのに、価値に気づいていなかったのですか?
出水享 そうです。「3Dってスゴイんだ」と自分でも驚きました。恥ずかしながら(笑)。私も3Dデータの価値に気付いていなかったんですかね(笑)。軍艦島の価値を少し忘れかけてたのかも(笑)。
そして軍艦島3Dデータは、2015年に「グッドデザイン賞(公益社団法人日本デザイン振興会)」を受賞したのですが、向こうから「応募しませんか?」と話が来ましたからね。テレビ取材の依頼も来て、仲間由紀恵さんとテレビ東京さんの「仲間由紀恵の蒼い地球9~世界遺産を目指せ!環境の守り人たち〜」で共演したんですよ。嬉しかったですね(笑)。