劣化スピードのデータ把握が必要
——ドローンなどのIT技術は日進月歩ですが。
出水享 確かに、現行のドローンと比べると、当時のものは性能が低かったです。撮影中に構造物などにぶつかりそうになったことが多々ありました。今ではドローンなどの性能がかなり上がっているので、安全で安心に飛行・撮影することができます。
また、写真測量の画像解析技術の進化やパソコンの処理速度が向上したため、より高精度な3Dデータをより早く作成することが可能になっています。2017年にもドローンを飛ばして、3Dデータ用の撮影を行ったのですが、3時間で撮影が完了しました。2014年のときは、2台のドローンを使って2日間かかりました。私が撮影のコツをつかんだことありますが、いろいろな技術の向上がやはり大きいです。
今取り組んでいるのが、以前のデータとの変化点の分析です。構造物のどこがどのように変化しているのかという、3Dデータの比較によるモニタリングです。例えば、ある損傷箇所がここ数年で進行したのか、20年前から同じ状態なのかを知ることが大切なんです。劣化のスピードのデータを把握することは、軍艦島を保全するために必要なことだと考えています。
全国の文化財を「デジタル真空パック化」
——3Dデータ化の技術は、軍艦島以外でも活用していくお考えですか?
出水享 2018年6月に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界遺産登録された教会群があるのですが、遺産登録前の2015年に、長崎県小値賀町から依頼を受けて「旧野首教会群」の3Dデータを作成したことがあります。そのとき、文化財を3Dデータとして記録することの大切さを実感しました。
現在、地震や台風などの自然災害で各地の文化財が破壊されています。破壊されると元に戻すことは難しいんです。そのためにも3Dでしっかり記録することは大切なんです。
旧野首教会(小値賀町・野崎島)
by Nagasaki_3D_Project
on Sketchfab
私は、3Dデータによるデジタルアーカイブのことを「デジタル真空パック」と表現しているんです。文化財に関しては、依頼のあるなし関係なく、ボランティアとして、デジタル真空パック化していくことにしています。
実際に、「長崎3Dプロジェクト」を立ち上げ、眼鏡橋、原爆関係の構造物や雲仙普賢岳の土石流に埋まった家屋などを記録する活動を行っています。長崎以外にも、鹿児島県にある曽木発電所遺構、沖縄県の北大東島のリン鉱山跡、奈良県にある旧奈良監獄などの日本各地の文化財の3DCG化を進めています。
長崎眼鏡橋(Nagasaki Meganebashi)
by Nagasaki_3D_Project
on Sketchfab
りん鉱山跡(北大東島)
by Nagasaki_3D_Project
on Sketchfab
2018年にはハコスコさん、太陽企画さん、日本列島VRさんとコラボし、「長崎教会群VR」を完成させて、WEBで公開しています。
——地震などの災害現場を3Dデータ化すれば、復旧復興に役立ちそうですね。
出水享 そうですね。被災地でドローンを飛ばせば、どこのなにがどれくらい壊れたかが分かるし、危険な場所で現地調査などができないような場合でも、データを元に、復旧復興などの対策が立てやすくなります。災害対策本部と現場の情報共有などもスムーズになるでしょうね。
現在、国土交通省が「i-Construction」というICT技術を全面的に活用し、建設現場の生産性向上に向けて、工事現場を変える動きを進めています。3Dデータの活用はいずれ当たり前になる時代がくると思います。
——普通の町並みを残すことも、意味があると思われます。
出水享 おっしゃる通りですね。街並みなど先人が築いてくれた遺産を一つでも多く、デジタル真空パックにすることが大事だと考えています。私たちが死んだ後、50年後、100年後の未来に、私らが記録したデータがあれば、未来の人がそれを活用して、自分たちの時代を考えることができるようになります。
今の私らは、図面や写真などでしか昔を知ることはできませんが、3Dデータを記録として、未来にどう保存し、残していくかは、大きな課題の一つですね。しっかり考えていきたいと思っています。
今後の活動としては私一人でできることは限られているので、長崎3Dプロジェクトのメンバーや我々の活動に賛同してくれるパートナーと一緒にやっていきます。また、日本のみならず世界にも活動を展開していきたいですね。
出水 享さんのプロフィール
長崎県/39歳/185cm/博士(工学)。2014年にドローン の空撮画像で軍艦島 3DCGを制作し2015年にグッドデザイン賞。同年、軍艦島で仲間由紀恵さんとテレビで共演。写真家の佐藤健寿氏と軍艦島でコラボ。長崎県内の文化財を3Dデジタルアーカイブする「長崎3Dプロジェクト」を実施している。2017年には開発したインフラ構造物の検査技術で国土交通大臣表彰。2016年に「噂の土木応援チーム デミーとマツ」を結成して、子供たちに土木の楽しさを伝える活動をボランティで行い話題を呼んでいる。
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