二度と行きたいと思わない?国宝・三佛寺奥院投入堂
投入堂の正式名は「三佛寺奥院投入堂」。良質なラジウム温泉で知られる三朝温泉が有名な鳥取県中部の三朝町にあり、鳥取県唯一の国宝建造物だ。
急峻な崖の岩窟に建てられていることから容易に近付くことはできず、日本中を飛び回った写真家の土門拳をして、「投入堂は本当に美しい。その建築美は日本一だ。しかしまた撮影の必要が起これば兎に角、三徳山の険阻艱難を思うと、二度と行きたいとは思わない」と言わしめている。

投入堂までの道中は、両手も使って木の根っこや鎖鎌をたどっていく。
古い文献や資料が少ないため、いつ頃、誰が、何の為に、どのように、なぜ、あの場所に建てたのか分かっていない。
この謎に満ちた投入堂を40年以上も研究し昨年、『国宝 三佛寺奥院投入堂 解けた謎。深まる謎。』を自費出版したのが、一級建築士の生田昭夫さんだ。
三佛寺奥院投入堂を自費で研究
生田さんは、投入堂がある三朝町の隣、倉吉市の出身。東京学芸大学に通いながら、早稲田大学の専修学校建築科でも学び、そこで教授から言われた一言がきっかけで投入堂の研究を始めたという。
「東京から鳥取に帰る際、先生から“必ず発見があるはずだから、三佛寺投入堂をしっかり見なさい”と言われました。投入堂には何度か登ったことはありましたが、学生時代は国宝であることすら知りませんでした。帰郷後、三徳山周辺の景観に問題意識を持ったことから、三徳山に通う機会も増えました。」
設計事務所「堂計画室」を立ち上げて、住宅や店舗などの設計業務に勤しみながら、生田さんはライフワークのように投入堂のことを調べ続けた。
その間、十数回にわたってお堂の中に入る機会にも恵まれ、投入堂の内部壁が赤い色に塗られていたことや、その顔料がベンガラであることを突き止めた。
「じゃあ、どこのベンガラなのか?と言うとそれもわからなくて、新しい謎を呼ぶことになってしまいました。全容解明には程遠いですが、設計者の視点で投入堂に取り組んできました。」謎を解いた瞬間から次の謎が生まれるという。
昨年の書籍化にあたっては苦労も多かった。「使用料が高額の写真もありましたが、写真は多めにしたいと思ったので掲載しました。校正料も30万円かかりました。図解も多くて大変でした。それでも、これまでの調査や考察をまとめることができて感慨深いものがありました。」
設計士である生田さんが半生を賭けるまで惹きつけられた国宝・投入堂。その魅力はどこにあるのだろうか。

生田昭夫『国宝 三佛寺奥院投入堂 解けた謎。深まる謎。』