橋梁の長寿命化、インフラメンテナンスというビジネスチャンス
――ケミカル工事が設立した「橋梁プロテクト技術研究会」とは?
國川正勝 橋梁プロテクト技術研究会は、橋梁の長期寿命化のための「迅速かつ効果的な補修・補強技術」の研究を行い、その技術を普及拡大する目的で設立しました。
橋梁の劣化現象の多くは、橋面から確認できる「舗装劣化」「橋面防水」「ジョイント」「床版と桁端部」に集中しています。
一方、橋面の供用下での補修工事となると、交通規制から車線規制や夜間規制となり、迅速に工事を進めることが要求されます。国も自治体も橋梁の長寿命化に本腰を入れており、インフラメンテナンスという観点からもここに大きなビジネスチャンスが生まれます。
これからは老朽化した橋梁を再生する技術が求められます。老朽化した橋梁は走行性や荷重性に課題を抱えており、一刻も早く解決しなければなりません。
そこで開発した「橋梁プロテクト技術」は橋梁の長寿命化と耐震性能の向上を目的としたもので、床版端部と橋台パラペットを超速硬コンクリートと、鉄筋代わりのCFRPグリッドで結合するとともに、同材料によって橋台背面の盛土部までアプローチ板を伸ばすことも可能です。
この技術により、次の3点の効果があります。
- 伸縮装置を無くすことで、(伸縮装置の)止水機能劣化によって生じる漏水からの床版端部や橋台パラペット、支承への損傷を防ぐ
- アプローチ板を伸ばすことで地震などによって生じる段差を抑制できる
- 伸縮装置の解消により振動・騒音を抑制する
この3点の橋梁技術を融合することで、橋梁を再生します。
もう1つの狙いは、地震などの災害時には生コン工場が出荷できなくなるという課題に対応するためです。実際、東日本大震災では、生コン工場が被災し、一時的に生コンの供給が困難となったこともありました。
こうした時には移動できるモービル車を使って供給できる超速硬コンクリートが非常に便利なのですが、その技術について地方では知っている人が少ないと感じています。
橋梁プロテクト技術を知ってもらうことで、超速硬コンクリートが震災時や交通規制を短くしたい時に検討できる材料であることも広めたいと考えています。
南海トラフ巨大地震、関東大震災が予測され、全国各地での巨大地震発生確率は年々高くなってきています。その時、ケミカル工事の技術がお役に立てるものと思います。
交通規制が難しい箇所のRC床版延命工法「上面増厚床版部剥離補修システム」
――ケミカル工事が持つ、橋梁の長寿命化・維持補修技術には、他にどのようなものがあるのでしょうか?
國川正勝 例えば、NEXCO西日本、NEXCO西日本エンジニアリング関西と共同開発した「上面増厚床版部剥離補修システム」という技術があります。

上面増厚床版部剥離補修システムの実用例
——どんな工法ですか?
國川正勝 橋梁のコンクリート床版を補強する「上面増厚工法」によって補修したRC床版と既設床版との境界部には、「すり磨き現象」により水平ひび割れが発生します。これにより床版の一体性が失われ、本来の機能が果たされていない、という現状があります。
また、従来から行われている床版上面からの補修方法では、交通規制を伴う社会的影響が大きいことが課題となっています。
しかし、「上面増厚床版部剥離補修システム」であれば、全ての作業を床版下面から実施し、水平ひび割れの内部の洗浄と充填材を注入することにより、交通規制を必要としない補修方法が実現できます。
水平ひび割れは目に見えない中での施工となるため、どれだけ水平ひび割れ内部の堆積物が洗浄されているかが、一体化を図る上で重要なポイントになります。従来工法では高圧ポンプで水を圧送するのみで、水の道がただできてしまい洗浄が不十分でした。
そこで、スピンジェットノズルと呼んでいるウォータージェットによる超高圧発生装置(水圧100MPa、水量37ℓ/毎分)を活用し、ヘッドの高圧水射出口(ノズル)を複数、水平方向に配置しノズルを高速回転させながら水を射出することで、最小0.1mm幅のひび割れや剥離面にあるノロなど堆積物を取り除くことが可能になりました。
その後、床版下面の同じ穴から水中硬化型エポキシ樹脂や水中硬化型アクリル樹脂を低圧注入します。この樹脂は水中硬化型のため、通常の樹脂より乾燥養生に要する時間を短くでき、最小0.1mm~最大10mmのひび割れ幅に充填することが可能です。
この「上面増厚床版部剥離補修システム」は、床版取替えまでの延命化処置として今後期待できる工法となっています。交通規制が難しい箇所におけるRC床版の延命工法として、積極的に適用を図っていきます。
そもそもメンテナンスしやすい構造物を最初から作って欲しいと思うわ。