フィリピンにCADをアウトソーシング
――鉄筋加工事業者が、なぜ海外に進出した?
岡田健太郎氏 創業当初からのメイン事業は、あくまで戸建て住宅向けの鉄筋加工事業です。今は溶接のユニット鉄筋を年間1万棟以上の現場に納品しています。
ただ、鉄筋加工事業は差別化がはかりにくく、単価競争に走りがちなんですよ。
そこで、他社と差別化するための新たな価値創造として、海外人材活用事業を開始することになりました。
――CADのアウトソーシング事業を始めた理由は?
岡田 リーマン・ショックから現在にかけて、ハウスメーカーや工務店ではCAD設計の人材が特に不足しています。
10年ほど前は、設計業務は長時間労働が普通でした。しかし、昨今の働き方改革の流れで、いかに業務量、特に作図に掛かる負担を減らすかが課題となっているんです。
それに、設計者は戸建て住宅の顧客に対して、提案説明をすることが重要です。作図に時間がとられてしまっては本末転倒ですよね。
そこで、人手の足りない設計業務に海外人材を活用するため、2008年にフィリピンに100%子会社のCADセンターを設立し、作図や積算業務のアウトソーシング事業を開始しました。
――CADのアウトソーシングとはどんなフローで行われている?
岡田 営業がプランニングしたものをフィリピンのCADセンターに送り、フィリピン人スタッフが図面やパースの作成、資材の拾い出しなどを行って、日本に戻しています。
――フィリピンでは、設計業務も行っている?
岡田 当社ではやっていません。CADセンターでは、平面詳細図や基礎伏図等の作図業務を中心に、平面図や3Dパース等のプレゼン資料の作成、鉄筋や各種資材・部材の積算業務を行っています。
――事業は順調ですか?
岡田 おかげさまで事業も軌道に乗り、今年で10年目になりました。今は、フィリピンのマニラ市でスタッフを90名ほど抱えています。日本人も4名常駐しています。
今はハウスメーカーや工務店、設計事務所、建材メーカーなど、20社ほどのクライアントがいます。
作図業務を海外にアウトソーシングすることへの理解は深まっているように感じます。
――収益に乗せるのは大変だったのでは?
岡田 採算ベースに乗せるのは確かに大変でした。フィリピンは、賃金は安いのですが、電気代などの固定費は場合によっては日本より高いこともあります。日本人も派遣しているので、管理費はそれなりに掛かりますね。
それでも、鉄筋加工事業だけでは生き残れないと考え、顧客に新たなサービスを提供することを決断しました。
鉄筋加工事業とフィリピンでの人材事業はいい相乗効果があり、片方の事業の顧客がもう一方の顧客になるシナジー効果もあります。
フィリピン進出を目指すハウスメーカーが増加
――フィリピンでは、ほかにどんな事業を?
岡田 海外にCADセンターを立ち上げようとするハウスメーカーも増えているので、会社設立の支援事業も行っています。
海外に会社を設立するのは簡単なんです。ただ、「うまくいかないから、やめます」と撤退するのが難しいんです。いわゆる「撤退リスク」と呼ばれるものですね。
それに、設計図面のクオリティーや収益を確保するためには、まずはやってみないとわからない部分も多いんです。
そこで、当社の社内に専属チームを立ち上げてもらい、チーム運営を練習し、核となるフィリピン人スタッフが育ったところでチームごと会社として独立させるスキームを提案しています。
あるお客様は当社からの専属チームの独立を経て、フィリピンで現地法人を設立しました。当社内で3名程の専属チームでスタートし、10名程の規模で独立、今では50名規模に成長しています。
――フィリピンで活躍している日本人スタッフは優秀ですね。
岡田 英語が話せて、海外で働く意欲があり、さらに建築設計に詳しい人材となると相当限りがあります。さらに、フィリピン人に指導ができるというのは確かに優秀だと思います。
――しかも、海外CADセンターの技術責任者は女性だと聞きました。
岡田 この社員は建築士の資格も取得していますし、責任感もあります。もともと、海外で働きたいという意欲的な人材でした。