「ドローンを点検に使えないか?」
――新しい技術とは?
柴田 NTT西日本は従前から、センサーを用いてインフラの劣化の予兆を確認したり、車を走らせてインフラの点群データを収集するなどの取り組みを行っていましたが、それ以外の新しい技術を模索していました。
私はそのころ、NTT西日本の事業開発課長として、ドローンを用いた太陽光パネル点検ビジネスを行う売上げ数億円規模の会社を担当していたのですが、会社から「ドローンを点検に使えないか?」という話がきたんです。
そこで、私も開発メンバーに加わって、新しいインフラ点検技術について検討することになりました。それが2年前のことです。
――どういう検討をされたのですか?
柴田 NTT西日本のインフラには、局舎をはじめ、トンネル、マンホール、電柱、ケーブル、RTボックス(交換機)といった基盤設備などがありますが、まず、それらを縦軸に並べました。横軸には、目視点検、計測点検、触診点検といった点検方法の種類を並べました。そういうマトリックスをつくって、ドローンが点検に使えそうなインフラの検討を行いました。
3ヶ月ほどの検討の結果、「橋梁や鉄塔の点検にドローンを用いれば、効率的で、生産性向上が見込める」という結論が出ました。じゃあ「管路と鉄塔でやろう」ということで、点検に着手したわけです。ドローン点検業務は、グループ会社であるNTTネオメイトに依頼しました。
――難点検箇所が選ばれたということですか?
柴田 難点検箇所というよりは、点検コストが高い箇所が選ばれました。例えば、橋梁の桁裏に添架された管路を点検する場合には、通常橋梁点検車を使うのですが、1件当たり40〜50万円かかり、非常にコスト高い。そういう管路が3,000箇所ぐらいあります。
――管路や鉄塔の中からいくつか選んで、実際に点検してみたわけですね。
柴田 そうです。100箇所ほど選び、1年間かけてトライアル的に点検を行いました。ドローンでちゃんと空撮ができるのか、空撮した写真をもとに点検ができるのかといったことのほか、ドローンを飛ばすことによって、申請などの付随的な業務がどれだけ増えるのか、トータルでどれだけのコスト削減につながるのかなどについても検証しました。
――検証結果はどうでした?
柴田 直接原価で言えば、鉄塔だと約60%、管路は約80%のコスト削減ができることがわかりました。「ドローンを導入しない手はない」ということになりました。
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ドローン1回の空撮で、5つのインフラを点検できる
――まずはNTT西日本のインフラ点検にドローンを活用する話だったのですか?
柴田 そうです。本格的にドローン点検導入を開始することになったのですが、橋梁にはNTT西日本以外にも、電気やガス、水道などの管路も添架されていることが個人的に気になっていました。各事業者さんに点検の状況などについてお話を聞きに行ったんです。「われわれと同じ課題をお持ちじゃないか」という仮説がありました。
お話を聞いてみると、みなさんまったく同じ課題をお持ちだということがわかったんです。実際にインフラの点検業務を行うのは、同じ建設会社や設備会社の方々ですが、そういう方々はここ数年間で40%ほど減っているわけですからね。
そのとき、「ドローン点検は他のインフラ事業者さんにも貢献できるかもしれない」と思ったんです。電気、ガス、水道、NTTの管路が添架された橋梁であれば、1回の空撮で4つのインフラの点検ができるわけです。橋梁そのものを含めれば、5つのインフラ点検が1回でできるわけです。
ドローン点検には、ドローンで空撮する人と写真から悪い箇所を見つける人が必要ですが、他のインフラを加えたより多くのデータが蓄積されれば、それだけAIの教師データも蓄積され、圧倒的な速さでAIを育てることができます。
AIが育てば点検の自動化が可能になります。ドローンを使えば、複数の事業者による共同保全、共同でのAI強化を目的に、ビジネスができるのではないかと考えました。
全国にある橋梁、鉄塔などの点検費用を調べると、年間300億円ほどのコストをかけています。修繕まで含めると、1兆円に膨らみます。それだけの市場規模がありました。
ドローン点検によって、このコストを2割削減できたら、2000億円浮くわけです。浮いた2000億円をより付加価値の高いところに投入して、新たなイノベーションを起こすこともできます。