インフラメンテは「競争領域」ではない
――柴田社長が新たな会社設立を提案したと?
柴田 はい。新たな会社のビジネスプランを1ヶ月かけて書き、昨年12月にNTT西日本の社長に提出しました。社長からは「それはぜひやるべきだ」と言われました。
「NTT社内の効率化はもちろんだが、社会全体への貢献は良いテーマだ」ということで、「会社を立ち上げてごらん」という話になりました。そこで、今年3月中に会社を立ち上げる目標を設定しました。
――ベンチャーですね。
柴田 そうですね。子会社の設立はNTT西日本としては8年ぶりでした。それを3ヶ月でできたのは、テーマが良かったのだろうし、いろいろなことに恵まれていたからでしょうね。
――会社名に「NTT西日本」が入っていないのはなぜですか?
柴田 インフラのメンテナンスは、日本の経済成長を支える非常に重要な領域ですが、それゆえに「もはや競争領域ではない」と考えています。同様のサービスを提供する会社同士がメンテナンスの技術を争って、お客さんに乗り換えてもらう領域ではなく、各社が協力しあって、メンテナンスコストを削減していく領域なんです。
コストダウンした分の資金は成長分野に投資する。競争するなら、成長分野ですれば良い。私はそう考えているんです。通信、電力、ガス、水道などといった業界を飛び越えて、「一緒にインフラ点検をやっていこう」というのがJIW設立の原点なんです。
――「競争しない」という発想は非常にユニークですね。
柴田 NTT西日本は、「競争しなさい」ということで、東西に分割されてできた会社です。分割する際、収益ベースで3兆円で線引きしたので、NTT西日本は30府県をカバーすることになりました。NTT東日本に東京都を含めると、そういうバランスになるんです。
30府県を1社でカバーするようなインフラ会社は他にはありません。電力会社は全国10社に分かれていますし、ガスや水道はもっと多いし、道路管理者も、国直轄を除けば、たくさんにわかれます。
NTT西日本は日本で一番施設数の多い会社なので、ドローンを飛ばして、インフラを点検し、そのデータをもとにAIを強化する場合、NTT西日本が一番有利です。
そう考えると、NTT西日本単独でサービス提供するのがビジネス的には一番の近道なのですが、先ほども言ったように、われわれはインフラ点検を競争領域だとは考えていません。電力やガスなどの通信以外の分野も含め、さらに大きなフィールドでインフラ点検を行う道を選びました。
通信以外のインフラを点検することで、AIもさらに強化されることになります。その枠組みは、NTT西日本ではなく、日本全体、ジャパンなんです。
ジャパンでやろうというのに、社名に「NTT」が付くと、「NTTのモノ」ということになりますよね。もちろん、資本関係など事実はその通りなのですが、電力会社やガス会社などと一緒になって、日本のすべてのインフラ点検することを目指そうという会社なのに、NTTを全面に打ち出すわけにはいきません。
NTT西日本には、「JIWを中立的、公共的な会社にしたい」という考えがあるんです。例えば、「JIWに出資したい」という他のインフラ会社があれば、NTT西日本の出資比率を下げても良いとも考えています。
つまり、JIWは「みんなで共同で出資して、AIなどの知財もみんなで共有する」ための会社なんです。NTT西日本は最初の枠組みをつくったに過ぎません。いずれ他社出資を募る会社にNTTをつけるわけにはいかないということなんです。会社設立に際し、NTT西日本の幹部の方々からは「しっかり新しい日本をつくってこい」と激励されました。
NTT西日本にとっても、メリットがあります。他のインフラを点検すれば、NTT西日本のインフラ点検だけでやるより、AIはより強化されます。みんなのインフラを点検することによって、AIが育つわけです。これは大きなメリットです。NTT西日本から、NTTをつけないことに対する反対は一切ありませんでした。
国内初! 点検ドローン-Skydio J2-レンタルサービス
建設業ほど若者から人気のない業界はない
――「みんなで一緒にやろう」には、柴田社長の思い入れもあったのですか?
柴田 ありましたね。つまるところ、私は日本で生まれ、日本で育った「純ジャパニーズ」なんです。アメリカで働いたことはありますが、自分が生まれ育った素晴らしい環境の整った日本のために貢献したいという思いがあります。
今の日本の経済は、インフラのメンテナンスや社会保障費などの費用が重荷となっていて、成長が見込める元気な分野に十分な投資ができない状況にあります。新しい産業もなかなか生まれません。
もし、今たくさんのお金を使っているインフラ点検を、イノベーションによってコスト圧縮できれば、日本の経済成長、日本企業の成長に貢献できると思っているわけです。
個人的な話になりますが、私の実家は、地域の建設業で、親父が社長をしていました。会社には屈強な方々がたくさんいて、「坊っちゃん」などと呼ばれるのですが、正直コワかったですね(笑)。
夏休みにアルバイトしたことはありますが、仕事は危険だし、キツイし、汚いし、ドボクの未来にまったく希望を見出せませんでした。家業を継ぐつもりもなく、大学は情報工学に進みました。
昨年、親父が会社をタタんだのですが、それを聞いたとき、ジーンと来て、悲しくなったのを覚えています。
建設業の入植者は年々減っていて、建設従事者の高齢化が進んでいるようですが、親父が会社をタタンだのは、「建設業界の縮図だな」という感じがあって、「建設業ほど若者の人気のない業界はないな」ということを確信しました。それが悲しかったんです。
それと同時に「建設業界を若者が志すような産業に変えたい」という思いが芽生えました。それがドローンによるインフラ点検につながるわけです。