独自開発の「音楽マンション」でブランド戦略に成功
――先ほどお話に出た「音楽マンション」とは?
越野建設 中小地場ゼネコンであっても民間の方がお客様であれば、ブランドをしっかりと立ち上げ、ブランドを裏打ちする性能を仕立てていくことが重要です。
そうは言っても、エッジのきいたコンセプトをなかなか立ち上げられるものではありませんから、これまで一般的なマンションでも品質をいいものを提供して参りました。
しかし、ある時、音楽好きな地元の地主様から、「音楽愛好家は練習場所も限られていて気の毒だ。何かいい方法がないだろうか」とのサジェスチョンをいただいたんです。
その提案を受け、楽器演奏愛好家に高品質な練習環境を届けるため、8年前から吉井政勝 取締役企画開発部長の指揮のもと、自宅で楽器演奏を満喫できる賃貸住宅「音楽マンション」のブランドを立ち上げました。

音楽マンション「サクラグラース」
――他社にも「楽器演奏可能」をうたうマンションはあるが。
越野建設 「音楽マンション」では、防音・遮音性を担保するため、遮音ドア、窓には断熱・防音効果の高い二重サッシ、床は二重床、天井も二重天井というアッセンブリーな組み合わせを随所に施しています。
中でも、最も大きなベースとなるものが、躯体そのものに弊社独自の「結晶化コンクリート」を採用し、打設している点です。
――「結晶化コンクリート」とは?
越野建設 弊社が開発した、水分量を必要最小限とした密度の高いコンクリートです。
2005年頃に、「RC品質向上プロジェクト委員会」をスタートし、弊社で新たな商品を開発すべく動いている中で、コンクリートの大家・故岩瀬文夫氏から、コンサルティングを受ける機会がありました。その際、「品質の良いコンクリートはこうあるべき」との示唆をいただき、「密度の高いコンクリート」を生み出しました。
特徴としては、緻密で空隙が少なく、コンクリート内部への水や有害物質の進入を遮断し、劣化を抑止している点です。ただし、優れた耐久性を維持し続けることができる反面、打設には「再振動」という難易度の高い技術と手間と人手が必要です。

「結晶化コンクリート」の生コンクリート状態での堅さ比較モデル
弊社の高耐久・高強度建築には、「結晶化コンクリート」の導入は欠かせません。いまや「音楽マンション」のほか、すべての建築物件で「結晶化コンクリート」による施工を行っています。
弊社の技術革新と品質向上への取り組みは、2005年「北区未来を拓くものづくり表彰」でも表彰されました。弊社の飛躍の原動力は、コンクリートです。コンクリートへのこだわりは企業理念そのものと言ってもよいのです。
――9年目を迎えて手ごたえのほどは。
越野建設 おかげさまで着実に棟数が増えています。今、設計中と着工済みも含めると、40棟になり、おおよそ800名の方が「音楽マンション」に住まわれています。
40棟のうち、半数が北区にあります。北区に音楽大学があるわけではありませんが、弊社の営業力が強い地域を中心に建築しています。当初、北区を中心に棟数を増やし、ほか、川崎市や埼玉県などでもご用命をいただき、建築しています。感触としては各駅に1棟ずつあっても、問題がなくまだまだ棟数は伸ばせると思っています。
これまでの実績を見て、特に地主様がご所有地の有効活用の手段としてご採用いただくケースがさらに増えてきました。今春は4棟が完成しましたが、来春に向けては6棟の完成を予定しています。
このように、当社の受注実績は平均で年間4~5棟数ほどです。現実的な受注数は弊社の技術者数で決まります。弊社は「音楽マンション」に加えて、公共事業、民間マンションも手掛けておりますので、ほぼ今期の目標は達成しています。
――「音楽マンション」が東京・北区以外でも広がりを見せている。
越野建設 「音楽マンション」の専用WEBサイトを立ち上げたほか、SNSを活用することで、中小地場ゼネコンでも広い範囲に自社ブランドを発信しています。近年は、今回のようにメディアにも取り上げていただく機会も増えており、その影響もとても大きいです。
とくに、不動産賃貸業のオーナーの関心は高いです。土地を購入し、マンションを建て、収益を上げていく中で、「音楽マンション」は通常の家賃より高く設定できるため、一般マンションよりも利回りが良くなります。金融機関からの融資も受けやすいことから、不動産投資家からもご期待いただいております。
平均入居率は常に99%を超え、部屋が空いたらすぐ入居したいという声も常にあります。玉石混交の楽器可賃貸市場において、これからも楽器演奏愛好家が十分に満足できる高品質な賃貸住宅を提供していければと思います。
地元・王子の中央工学校と積極交流
――地元の中央工学校は大手ゼネコンからも人気が高いですが、御社に入社されている方も多いですね。
越野建設 ええ。越野部長、吉井部長も文系出身ですが、入社してから中央工学校の夜学に通学し、建築技術を取得しました。実は地方の工業高校を卒業し、昨年入社した社員が、現在会社の援助で中央工学校の夜間部にに通っており、将来の現場技術者を目指して勉強中です。
加えて、OBが17名もおり、弊社としても中央工学校の存在はありがたいです。また、地元ですから、積極的にインターンシップを受け入れています。
受け入れにあたっては、弊社に興味を持ち、最終的には入社してくれるのであればありがたいという気持ちを隠すつもりもありません。2020年3月にも多くの研修生を受け入れ、実践的な現場施工を学ばれました。
また、弊社ではISO9001をベースとした、独自のKQM(コシノ・クオリティ・マネジメントシステム)を活用した品質管理活動を推進しています。KQMでのインターンシップの位置づけは人材戦略の一環でもありますが、若い学生を受け入れるにあたり、学生の感覚、彼らが求めている社会人像をわれわれが学ぶ場でもあります。
とくに、現場の所長には理解をお願いしているところで、それを真剣に受け止められ、短い期間ですが、本当の意味でのインターンシップ教育が実現しています。
そんな弊社の思いが功を奏して、中央工学校から毎年コンスタントに入社していただいております。
――最後に、次の100年に向けて。
越野建設 現在流行している新型コロナウイルスに対しては、感染を恐れるだけではなく、われわれも覚悟を持って変わっていかなければならないという気持ちになった事象とも言えます。
今、リモートワーク、テレワークなど働き方も大きく変わり、新技術への開発の萌芽が生まれていた中、新型コロナウイルスが落ち着けば、新たな時代の到来が一気に芽吹く予感がしています。
ですから、収束に備えて今からできる働き方や新思考などを準備しつつも、これまで100年以上、地域のゼネコンとして根付き、弊社にご下命いただいた地元のお客様に対して、的確にニーズをとらえ、柔軟に対応し、われわれ自身が良い方に変わっていく。そうすれば、未来は開けます。そのことを中堅以下の社員にもしっかりと受け止めてもらえればと思います。
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