倒産した建設企業は簿外債務の疑いも
今回、トラブルになった現場は、ステラ・バンビーニ(以下、ステラ社)が4月に開園を予定していた「東新小岩四丁目保育園」(仮称)。近隣にある「めぐみ保育園」の老朽化に伴い、新規に隣地を購入後、新たに保育所を建設し、2018年度から認証保育所(東京都基準)から認可保育所(国基準)に移行する予定であった。
しかし、ステラ社から工事を受注した伝統建築上総匠の会(以下、伝統社)は工事が完了する予定だった2月28日付で事業を停止し、3月5日に東京地裁へ自己破産を申請した。しかも現場はむき出しのようになっており、とても工事を遂行させる意思があったとは思えない。現場に行くとシートも汚く、工事を途中で放置した印象を受ける。葛飾区は待機児童問題の解消に向け、この新規保育所に期待していたが、ステラ社、ひいては葛飾区も伝統社に大きく裏切られた格好になった。これがトラブルの全容である。
伝統社は2013年11月に会社設立。地元の木更津市内を中心に千葉県内や、一部東京都内の個人や法人を対象に、戸建て住宅や共同住宅などの新築・リフォーム工事などを手がけ、2017年2月には葛飾区内に支店を開設した。2017年5月期には年売上高約7,800万円を計上していたが、その後は支払いの遅延が発生していたようだ。
負債は破産申請時点において判明しているだけでも約3億円。今後さらに増える可能性もあるようだ。ところが同社の同期末時点の負債は帳簿上で約3,300万円。それが10倍近くに増えているのは、「簿外債務が存在していた可能性も否定できない」と阿部氏は推察する。
建設企業の選定で保育園の責任も大きい
阿部氏は「結果的には業者の選定が大きな失敗となった」という。「待機児童問題が背後にあるなか、建設会社の事前調査はより慎重に、より厳格に行われるべきであったのではないでしょうか」(阿部氏)
しかも不可解なのは、ステラ社と建設中の保育園は距離的にすぐ近くで、いつでも工事の進捗状況を確認できる状態であった。にもかかわらず、工事未達を許してしまった 。
「もっと早い段階でこの問題が表面化していてもよかったはず。ステラ社は発注者として、伝統社に対して工事遅延について重ねて抗議していたか否かはわかりませんが、竣工予定日に事業停止したこと、さらに工事進捗率がたった約20%というのは不可解極まりない」(阿部氏)
さらに不可解なのは、なぜか伝統社の本社が現地から遠い木更津市にあった点だ。葛飾区には、古くからある地域建設企業や地元の建設団体・葛飾建築協会も存在するのに、なぜ、あえて伝統社を選定したのか。
保育所工事の受注金額は不明だが、「この規模であれば、葛飾区で根を張り、伝統ある地場建設業者が担当するのが妥当だったのではないか」(阿部氏)
伝統社は葛飾区内に支店を設置しているが、「この保育所工事を行うために設置したと考えられます」(阿部氏)。確かに、工事の受注時点と葛飾支店設置の時期は重なり合うため、その可能性は高いと言えよう。
阿部氏は「同様のトラブルは今後、決して発生させてはならない。今回の工事発注に行政がどこまで関与していたのか分かりませんが、結果的に工事完成に漕ぎつけることが出来なかった訳ですから、脇が甘かったと言われても仕方がないでしょう」と指摘する。
さらに疑問なのは、伝統社の社員がわずか3名という点だ。売上高や社員数を考えれば、そもそも保育所工事は場合によって1億円を超える案件なので、同社が建設技能労働者の手配、資材の仕入れ金額などの点で請負うだけの体力があったのか。
今回のケースは保育所建設だが、これから建築の増加が見込まれるひとつがサービス付き高齢者住宅をはじめとする高齢者向けの施設だ。この事業を展開している事業主に対して阿部氏は、「建設会社の事前審査はこれまで以上に慎重に行うべき」と提起する。