前渡金が運転資金や借金返済に回っていた可能性も
最近の特徴的な倒産事例では、振り袖販売・レンタル業「はれのひ」、格安旅行業者、エステに代表されるように前受金ビジネスの破綻がある。事前に客先から前受金を受け取りつつ、実際には運転資金に回っていて、成人式当日に破綻した同社のケースは記憶に新しい。
伝統社も建設業界の慣習としてステラ社から、前渡金を受け取っていたとされていたが、実際には運転資金や借金返済に回っていた可能性は否定できない。「工事の進捗率を見れば、そう受け止められても仕方がない」と阿部氏は語る。
一戸建て住宅でも同様だが、建設企業の選定はより慎重にすべきというのが大きな教訓だ。企業が倒産する場合、その態様は破産か民事再生法が多い。民事再生法は、原則として会社は事業(工事)を続けるが、破産は事業(工事)を停止し、企業も消滅する。
民事再生法は、一定の事業規模以上で再建の可能性が高い場合に選択するケースが多い。一方、規模が小さく地域経済に与える影響が少ない場合は破産を選択する。つまり、工事の継続性を優先するのであれば、事業規模が大きく経営が安定した企業を選ぶことは言うまでもない。また、規模の大きい建設企業であれば、横のネットワークがあり、別の建設企業が工事を引き継ぐケースもある。
これには実例があり、東京都江戸川区の学校建築を受注した伊勢崎組が事業停止になった際、同区のトヨダ工業が引き継いだ。
倒産取材のプロが語る、工事発注時の調査ポイント
帝国データバンクは企業調査、倒産取材・分析のプロである。「工事発注の際には調査会社などを利用した調査も大事だが、その前に与信管理担当者が自分自身で行動し、自分の目で最低限確認しておくことも大事」と阿部氏は啓発する。その5つのポイントを解説する。
- 104で電話番号が登録されているか
- ホームページを開設し、内容を更新しているか
- (法務局で商業登記を取得し)社長や役員に辞任や解任の動きはないか
- 公表されている住所に事業実態があるか、雰囲気はどうか
- (商業登記に記載されている)社長の自宅を確認する
「特に、会社には実際に最低でも一度は足を運ぶべきです。今回の場合のように、発注先が小さな建設会社の場合、事務所の見た目や雰囲気を実際に自分自身で確認することによって良くも悪くも決心がつくでしょう。遠隔地であれば今はストリートビューもあります」(阿部氏)
ホームページを開設していない会社は、えてして情報開示に消極的であるが、開設しているからといって安心は出来ない。開設していたとしても経営不振の企業の場合、内容を何年にもわたって更新していないケースは多いからだ。
今回の倒産劇は伝統社1社の問題に過ぎず、建設業全体のことではない、と反論する向きもあるかも知れない。しかし、阿部氏はさらに建設企業のみならず、個人経営、多くの小規模事業者が10年後、これまでにない大きな淘汰の時代を迎える可能性があると予測する。