当て盤も苦労多し
次の作業は当て盤の出番です。当て盤は,あらかじめ形成されているリベット頭に向けてスナップを当て、当て盤機械に圧縮空気を入れてピストンを作動させ「ドン」と固定させます。当て盤機は、鉄砲に比べれば小型ですが、リベット頭の位置で反力が取れるように、鋼管や棒鋼を頭部にかませて突っ張る位置を調整します。
橋の場合、上フランジの継手は、下フランジに反力を取れますが、ウェブ(腹板)の継手は反力を取るところがないので、2~3インチの鋼管の先端10cmくらいのところを、ゆるいZ字状に曲げて、その先にスナップをかまします。そして鋼管の曲がりの上部付近から太いロープを出して、その先端にフックをつけます。このフックを手ごろな位置の、まだ埋まっていないリベット穴に引っ掛けて、てこの原理でリベット頭を押さえます。この道具を「タイワン」といいます。
タイワンの登場する場面は多くあり、このタイワンを使っての作業は、なかなか熟練のいるもので、手だけでなく足も使い、まるで空中サーカスをしているような塩梅でした。
なぜ「タイワン」というのか職人に聞いたところ、台湾人が発明したから「タイワン」だということでした。カシメ屋は1000℃にもなる高温の物を扱うので、寒い国の日本人には不向きだということで、昔は暑い国出身の台湾人が多かったそうです。その他にも、工夫をこらした色々な道具を持っていました。
1か所の継手をカシメてゆくと、その継手の周辺は熱を伝えて熱くなります。通常の鈑桁なら、オープンエアなので熱を気にすることはないのですが、これが箱桁になると、かなり悲惨なことになります。
鉄砲は寸法も大きく取り回しが不自由なので、当然、継手の外側から打つため、当て盤は、箱桁の内側から当てなければならないのです。
そこで当て盤は、まず耳栓をし、両肩には作業服の上から小型の綿入り布団を括り付けます。そうしないと肩に火傷を負うからです。1か所の継手作業が終わって、マンホールから出てきた当て盤の肩の座布団からは煙が出ており、しばらくは聾状態でした。
これを見た時には本当に驚きました。リベッティングをすれば継手周辺が熱くなると頭ではわかっていましたが、現実には、分厚い布団が焼き焦げてしまうほどの熱気の中で作業していたのです!
打ち手(撃鋲)
打ち手は、本当に力仕事です。重い鉄砲を持ち、エアホースを引きずりながら、幅の狭いフランジの上に立って作業にあたります。力の入れ方を間違えると、リベット頭が傾いて偏心したり、場合によっては、鉄砲の反力で体が飛ばされ、墜落事故を起こす可能性もあります。打ち終わって、スナップを上げるまで、リベット頭の状態は見えないので、これも熟練の腕が必要です。
さらに、鉄骨のように梁部材の縦の寸法が小さいI型の下フランジの継手のような場合には、上面からは鉄砲が入らないので、上から当て盤で押さえ、打ち手はフランジの下面から打つ、つまり「かち上げ」作業になり、これまた渾身の力技になります。
エアツールができる以前は、一人がスナップを押さえ、左右から2人がかりで、大ハンマーを揮って打ち込んでいたそうです。この作業を、しかも高い足場の上で1日中やるわけですから、聞くだけでも重労働感が伝わってきます。
昔の人は本当に偉かった。「働き方改革」などというようなことが言われる、はるか昔の話でした。
はじめまして、かしめの記事が目に入ったので読ませて頂きました。
この時代に、かしめの事をよくご存じなので驚きました。リベット施工に立ち会われたことがあるようですね。楽しく読ませて頂きました。
ただ絶滅したとありますが、当社では投げ受け撃つカシメ屋の現役です。
かしめやは絶滅していませんよ。
大阪の成和さんが頑張って技術を伝えています。
定年退職船員です。見習いの頃,甲板長から造船所ではリベットを使って組立てることを聞かされました。鋲を下から上に投げる投げ手の職人とそれを受けて組み立てる人たちのコンビネーションを教えて貰いました。先日,東京タワーの組み立てをYouTubeで拝見しました。鉄塔も船と同じく鋲で接合した。その数26万本と説明され,55年前の甲板長の話が頭をよぎりました。鋲と溶接の歴史について調べているうちに,偶然このサイトにたどり着きました。
実際に作業を映像で見て,プロになって技術を積み重ねると,ほんとうに何でも出来てしまうのだなぁ・・・しかも,あんな高い所で平然と。
どんなに科学技術が発達しても,人間の手でないと形にならないことは残ります。たしかに,働き方改革もパワハラ防止も必要なことです。
でも,それと同じ以上に,この技術を後世に伝えることも大切です。東京タワー建設の画像を見ていて,今の日本の繁栄があるのは,この人たちの職業的気概と汗のお陰であることがとても良く分かりました。東京に行ったときに,スカイツリーではなく,何故か東京タワーに惹かれる意味も整理出来ました。先人たちのたゆまぬ努力と汗に深く敬意を表したいです。