フルハーネス型安全帯でも、吊られてみると意外にキツい
――胴ベルト型安全帯とフルハーネス型安全帯では、それほど安全性が違うのでしょうか。
中辻? フルハーネス型安全帯は複数のベルトで身体を支えるので、墜落制止の際に衝撃が分散されるため、胴ベルト型安全帯に比べて身体保護の観点でより安全性が高くなります。
そもそも、胴ベルト型安全帯では墜落時に体が抜け出すリスクがあり、非常に危険です。また、宙づりになった際、身体が「くの字」になり、胸部や腹部など局所的に負荷が掛かり続けることで、内臓破裂や肋骨骨折の重症、さらには低酸素脳症による死亡例もありますし、助かったとしても深刻な後遺症が残る危険性もあります。
胴ベルト型安全帯を使用した上での労働災害は、毎年数多く発生しているにもかかわらず、フルハーネス型安全帯が普及しないのは、実際に高いところから落ちたことがないのでイメージが湧かないからではないでしょうか。
3Mでは、胴ベルト型安全帯とフルハーネス型安全帯の墜落時の違いを分かりやすく説明するために、墜落制止デモンストレーショントラックを製作しました。依頼があった企業や現場に派遣しています。
まず、胴ベルト型安全帯とフルハーネス型安全帯で、墜落時にどのような差があるのかを人形を用いた実験で見ていただきます。
胴ベルト型安全帯は骨盤の上に着用するので、すぐにずれて安定しないんですよ。しかも、先ほど話したように身体へのショックも大きい。何より、墜落のスピード感や恐怖感というのは、ぜひ実際に見て感じていただきたいと思います。
次に、落ちた後は身体がどのような状態になるのか、フルハーネス型安全帯を着用しての吊り下げ体験をしてもらいます。
体験すると分かりますが、実際に吊り下げられるとフルハーネス型安全帯でもそれなりにベルトによる圧迫があるんですよ。だからこそ、「胴ベルト型安全帯ならどうなってしまうのだろうか」と想像してもらえるかと思います。
フルハーネス型安全帯も、正しく着ないと意味がない
――シンプルな胴ベルト型安全帯と比べて、フルハーネス型安全帯は着るのが面倒そうです。
中辻? そうですね。ただ、フルハーネス型安全帯は、正しく着て、初めて自分の命を守る保護具になります。
日本では、ニッカポッカのようなゆとりのある作業服を着る文化があり、その上から緩くベルトを締めている人も多いですが、正しく着用しないと、墜落制止時に身体に予想外の負荷が掛かるリスクがあります。着心地の面から、ベルトを緩めに締めている方も見かけますが、必ず長さを調節して使用してください。
それと、D環はかならず肩甲骨の間にくるようにすること。骨盤ベルトも、臀部の上部で留める方がいますが、臀部の下部にあるかどうか確認してください。吊り下げ時に、逆さま姿勢になることを防ぎます。
また、胸ベルトを鎖骨あたりで留めている人もいますが、墜落時に上にずれて、首を締める危険があるので、必ずバストトップで止めてください。逆に、女性は胸の下でベルトを留めがちですが、墜落時に胸を傷つける危険があるので、絶対にやめてください。
――フルハーネス型安全帯は、どれくらいで買い換えればいいですか?
中辻? 「日本安全帯研究会」では、ランヤードは2年、安全帯は3年を交換時期の目安としていますが、3Mでは使用期限は定めていません。毎日現場作業をされている方と現場パトロールだけの方では、蓄積されるダメージに差がありますので、一律に使用期限を設定することはできないからです。
ダメージがなければ継続して使用できます。ただし、ダメージインジケーターや縫製のほつれなど、状態は必ず使用前にチェックしてください。