女性土木技術者の歴史はユニコーン、パンダ、シマウマ、ネコ…
――今、女性技術者はどんどん増えてきていますが、当時と比較していかがですか。
私たちの世代は女性扱いされるのを嫌がってきたと思います。男も女も同じでしょう、男として扱ってください、女性として扱ってくれるなと常々言っていました。「私の中身は男ですから、私に女性の意見を期待しないでください」と発言されている方を見ると、しばらく前の私を思い出します。「受け入れてもらうには男になる必要がある」ことを経験してきた世代だと思います。
――現在は「女性ならではの視点」など、過剰に女性扱いされるのに違和感はありますね。
早稲田大学の谷口真美先生の「ダイバーシティに対する企業行動」のモデルをご紹介します。企業が違う種類の人を受け入れる過程のモデルでは、まず初めは「拒否」、続いて「同化」、次が「分離」、最後が「統合」があります。
――最初の拒否はわかりますが、同化、分離、統合とはどのような状態でしょうか。
初めの拒否は「女性はうちの組織には不要です」ですね。続く同化は「男になるならいていいよ」です。次の分離は「女性の特徴(そんなものがあるとして)に期待して女性を取ろう」です。今の土木業界がこの段階ですね。最後の統合は「多様性が面白さを生むから来て欲しい」です。まさにダイバーシティですね。
――なるほど。会社に勤務されていた頃は拒否の段階でしたか。
私達は同化することで生き残らせてもらえた世代ですね。先ほど紹介したように、いつも「私の中身は男です、特別扱いしていただかなくて結構です」と主張していました。でもこれを次の世代に言ってはいけないなと思います。
――次世代に言ってはいけないと思われたきっかけはありましたか。
土木技術者女性の会、土木学会などで若い世代とお付き合いする際に気づきました。男性のようにふるまい、自分の奮闘した体験を必要以上に強調すると、「男性のようなスーパーウーマンでなければいけない」という、後に続く方々を蹴落とすようなメッセージを発信していることになります。これはいかんと思いましたね。
――まだまだ女性技術者に「男らしさ」を求める部分がありますね。
私の場合は年齢を重ねて「おばちゃん力」が付いてきていました。この能力を活かすために、自分が男性じゃなくて良かったなと思っています。「あめちゃん、食べる?」って言えるおばちゃんは性別も世代も肩書きも国籍も超えられます (笑)。
――女性技術者の、業界内での立ち位置も時代とともに変わってきているのですね。
女性土木技術者の世代を、最初はユニコーン、次がパンダ、続いてシマウマ、最後がネコと説明しています。ユニコーンというのは伝説の存在ですね。見たことがあるという人もたまにいる、珍しい存在です。次はパンダで、1990年代に入社した各社の第一号です。特別な動物園に行くと見られるかもしれない存在で、愛くるしい宣伝役です。次のシマウマはたいていの動物園にいます。2000年代の各社の定期採用が始まった時代に入社した方々ですね。そして2010年代になると各社が毎年女性を採用するようになる。その時代に入った方々をネコの世代と呼んでいます。
――ユニコーン世代は、具体的にあの方達かなと思い浮かびますね。
そうでしょう!ユニコーンの世代は数えられるほどしかいません。各業種にひとりいるかいないか、いないかもしれない。でも業界の人は皆知っていて、飲み会でならお目にかかれるかもしれないという…。バリバリのスーパーウーマンです。
――なるほど。パンダ世代はいかがでしょうか。
パンダ世代は1990年代入社の、現在50歳代くらいの方たちですね。土木技術者女性の会の仲間にも沢山います。この世代で転職しないで済んでいるのは行政機関にいらした方が多いですね。当時の女性技術者は、採用試験の門戸を開けてもらうよう戦い、採用され方で戦い…という感じでした。総合職と一般職の間の、会社によって名前は違うと思いますが、専任職と言われる立場で働いている方もいました。
――続いてシマウマ世代、ちょうど30~40代でしょうか。
シマウマになってくると、ユニコーンやパンダほど採用され生き残るための難易度が高くはなくなってきますが、それでもまだまだ条件が必要ですよね。とは言っても、シマウマまでの世代は数が少ないので自分がロールモデルだって言い切れる強みもあります。「私のやり方はこれですから」「当社の女性技術者のやり方はこれですから」って言い切れる。シマウマの世代はそうやって自分のやり方を主張して、生きやすくしていったらいいと思います。
――そして最後にネコの世代ですが。
そしてネコの世代になったら、ゆるいのものんびりしたのもキリキリしたのもバリバリも全部いるようになる。我々が「ゆるキャリでもいいじゃない」って言うためには、このネコの世代を増やしていかなくてはならないです。ネコの世代が主流になったら主張できるようになると思います。そしていずれは、女性技術者は「ヒト」と呼ばれるはずです。
――ネコの世代になると、皆が働きやすい時代が来るでしょうか。
ネコの世代の女性技術者が中堅の年齢になる頃には、業界には色々な属性の方がいることが特別ではなくなっていると思います。業界の中に、女性に限らず多様な存在がいることが当然と受け止められるようなれば、それぞれの方々の働きやすさの問題も認知され、苦しい人も減るのではないでしょうか。そしてその時に、過渡期に繋ぎ止められず辞めていった人達を、私たちは忘れてはいけないと思います。