土木業界で「変えてはいけないもの」は少ない
――辞める前の、組織の中で辛い思いをしている人達に出来ることはあるでしょうか。
私が悩んだ当時、先輩が欲しいなと思っていました。色々な問題をもう少し一般化して考える手助けをしていただけたのではないか思います。今、辛い思いをしている方に対し、組織の内外の方が、ご自身の通ってきた悩みを一般化して教えて差し上げると、いいのではと思います。
――仕事をする上での問題であれば、個人だけの問題ではないですからね。
真面目な人ほど、「私が出来ないから採用されない」「私が弱いから徹夜すると辛い」「私がダメだから…」と、個人の問題にしがちですよね。勿論、能力と仕事のマッチングがうまくいかない部分もあるとは思いますが、そうじゃない部分もありますよね。
私の場合、長時間の勤務も辞める決断をした理由ですが、ちょっと立ち止まって考えてみたら、そもそも働き方自体がおかしかった。そういった数々の問題を、一緒に考えてくれる先輩がいたら良かったなと。
――その先輩の立場を、業界全体で担っていきたいですね。
土木業界の若い方に会う機会が多いので、「あなたの会社ではそれが常識かもしれないけど、それは世間の常識ではないよ」と言うようにしています。私の仕事だと思っています。
――若い人が組織の常識に息苦しさを感じても、まだまだ常識を変えるのは難しいですよね。
土木の仕事で守るべきものは何かというと、まず安全、品質でしょう。それ以外に本当に変えてはいけないものは少ないと思います。ある建設コンサルタントが期間限定で始めた「ノー残業デー」も、今では建設コンサルタント業界や建設会社にまで広がっています。常識は変わります。
――土木を辞めた方にメッセージを伝えるとしたら。
何かを決断されたことに敬意を表します。よくやりました。でも、その決断に捉われず、しなやかに次の判断を重ねていただきたい。もし、あなたがご自身のせいだと思って辞めたとしても、実は個人の問題ではなくて、多分に業界全体の問題でもあったかもしれないよ、と伝えたいですね。
――当時のご自身に伝えたいことはありますか。
辞める決断をしたから今に至るわけですが、それでも勿体ないことをしたなと思います。当時の私には、その後のあなたは、その経験を無駄にはしなかったよと伝えたいです。
多少なりとも長く生きている私達は、過去の自分や周りの経験を振り返って、目の前の若い人に言えることが沢山ありますよね。それを個人の範囲だけでやるのではなくて、皆で共有し仕組みや意識を変えられたらいいですね。これから、この業界の常識が良い方に変わると期待しています。
――ありがとうございました。
「土木辞めた人、戻ってきた人インタビュー」後記
山田菊子さんは、ご自身の経験から土木を広い視野で捉え、私達と一緒に土木の未来を考えてくださる素敵な先輩です。男女を問わず、日々の業務に疲れて「土木のドの字も見たくない」時、山田菊子さんの論説を読むと救われる気がします。
大企業のトップ、輝くドボジョ、活躍する若手技術者…そんな眩しい成功例ばかりが報道される中で、自分の土木人生を見つめる時、山田菊子さんの生き方は参考になるかもしれません。
山田菊子さんの論説「まわり道のキャリアも支える土木学会に」http://committees.jsce.or.jp/editorial/no111-1
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