受注しても売れない「商圏90分」という呪縛
生コンクリートの商圏は、距離的な制約を受ける。「JIS A 5308(レディミクストコンクリート)」の規定によって、生コンクリートの出荷は荷下ろしまで90分以内と定められているので、例えば、東京都の現場で使う生コンを、静岡県の工場に依頼することは事実上不可能。生コンクリートの商圏は極めて狭い。
しかし、「これが生きる道」と信じて疑わない20代の宮本青年は、2005年(平成17年)から長岡生コンクリートの新規事業として、透水性コンクリートの普及活動をスタートし、手当たり次第、地元の静岡県だけでなく、東京、神奈川、大阪、名古屋など、主要都市に遠征して飛び込み営業をかけた。「〜設計」「〜建設」「〜土建」「〜造園」「〜工務店」という看板が目についたら、片っ端から訪問して、透水性コンクリートがいかに優れているかセールスしまくった。
「1日に30件回るなんてザラ。いま考えれば、完全に的外れの営業だった。そもそも生コン工場には、セールスとかマーケティングという概念がないことも知らなかった。とにかく行き当たりばったりだったが、中にはそんなデタラメな営業を面白がってくれるお客様もいて、『じゃ、今度の案件に採用してみようかな』と成約することもあった。」

長岡生コンクリートは生コン工場の最先端を進む。受注管理、生コン製造まで全てデジタル化。
しかし万が一にも、長岡生コンクリートが工場を構えている伊豆の国市の近隣で、工事案件が発生することはない。関東圏ならまだしも、東京の設計事務所だからといって、その図面は東京の現場とは限らず、北海道の案件だったり、沖縄の案件だったりする。つまり、全国どこでも案件の発生する可能性があるのだが、伊豆の国市からわざわざ透水性コンクリートを届けるのは事実上不可能だった。
「たとえ営業が結実しても、その案件が発生した地域の生コン工場に、透水性コンクリートの製造を依頼する必要が出てくる。受注の数だけ、その土地の生コン工場と交渉しなければならない。でも、僕のようなワケのわからない若造に対して、すべての生コン工場が協力してくれるわけもなく、不信感をあらわにする生コン工場や、『いくら貰っても協力できん』と憤る生コン工場もあった。しかも、ポーラスコンクリートの先行製品(佐藤渡辺のパーミアコン)が生コン業界に浸透させた『ミキサーにボンドを入れる』という既存イメージが強烈で、生コン工場の協力を得るのは苦難の道のりだった。」
それでも、透水性コンクリートの製造には、各地の生コン工場の協力が欠かせない。宮本氏は、受注があるたびに少しずつ少しずつ、全国行脚して小さな生コン工場とのアライアンスを形成していった。そして約5年後、長岡生コンクリートは、日本全国の現場に、透水性コンクリートを納品可能なネットワークを構築するに至った。宮本氏の無謀なセールスの延長線上に、生コン工場の新たなネットワークが誕生し、「商圏90分」という生コン業界の呪縛を突破した形だ。

長岡生コンクリートはコンクリートミキサー車のナビゲーションもデジタル化。オフィスはフリーアドレス。
2011年(平成23年)4月、このネットワークは、生コン産業が元気になるように、という願いを込めて、「元気な生コンネットワーク(GNN)」と命名された。GNNは今や105社が参加する日本最大の生コン工場アライアンスに成長。全国に生コンクリートの販売網を持てるようになった加盟企業同士でイノベティブな製品開発をスタートする事例も増えてきている。
それだけではない。宮本氏は今年から、クレジットカードで生コンを購入できる前代未聞のサービスもローンチした。これによって、生コンを購入する側も、従来の「生コン組合」や「地域」という、一本化された生コン流通網の呪縛から解放される可能性が広がった。
宮本さん、マジかっこいい。マペイって凄いな。
良記事。門外漢だが、実態と課題が良く理解できた。
セリエA「サッスオーロ」のオーナー企業で、ツールドフランスのスポンサーとしても有名なイタリアの建材メーカー「MAPEI」社と「長岡生コンクリート」が共同開発した特殊な粉「Re-con ZERO」。建設現場で発生するゴミ「戻りコンクリート(残コン)」に混ぜるだけで再利用可能に。ちなみにMAPEI上級研究員の息子は、長岡生コンクリートに勤務している。
まじかっこいい
GNNを知らないコンクリ屋はもぐりですよ。
プロジェクトXとかガイアの夜明けとか情熱大陸に出てもおかしくないですね。
GNNの噂はよく聞く
良記事!これはおもしろい!
めちゃくちゃ良い記事発見〜
工事で生コンを使用していながら、生コン業界の現実を知らなかった・・・
自然災害が増加する日本ではさらに重要な資材となるはずです。
興味深く読ませていただきました。
大変勉強になりました。